診療ガイドライン

診療ガイドライン - 第1章 検尿の現状



第1章 検尿の現状
 1.検尿の重要性

 わが国の慢性透析患者数は年々増加の一途をたどっており、日本透析医学会統計調査委員会の集計によると、2001年末には21万9,000人を超えている。透析導入の原疾患では、糖尿病性腎症(新規透析導入患者の38.1%)の増加が著しいが、慢性糸球体腎炎(32.4%)も依然多くを占めており、腎硬化症(7.6%)も増加している。腎疾患の腎不全への進展を阻止するためには、まず第一に腎疾患の早期発見すなわち検尿を全国民に対して普及させることが重要になってくる。わが国では母子保健法、1歳6ヶ月健康診査、学校保健法、労働安全衛生法、老人保健法などんに基づいて生涯にわたり検尿が行われることになっている。しかし健診未受診、法律規定外での健診対象漏れ(主婦層など)、生涯にわたる尿異常の経過観察が行われていないなど、検尿に関わる問題があることも事実である。本章では検尿の重要性、検尿の疫学データについて述べていく


図1-A 年代別腎疾患推定患者数
折田義正ほか:腎機能(GFR)・尿蛋白測定ガイドライン
p12, 東京医学社, 2003より引用改変



図1-B 年代別腎疾患推定患者率(千分率)
平成11年 年齢5歳階級別人口表により補正
折田義正ほか:腎機能(GFR)・尿蛋白測定ガイドライン
p12, 東京医学社, 2003より引用改変

 厚生労働省大臣官房統計部の調査によると、わが国の年代別腎疾患推定患者数・推定患者率は平成11年10月の時点で図1-A1)および図1-B1)のようになる。腎不全患者数は50歳頃より次第に上昇している。これに対して糸球体疾患および腎尿細管間質性疾患数は、学齢期~青年期と中年期~高年期に2峰性のピークを認めている。これから糸球体疾患の発症は若年期の幅広い年齢に分布し、一見治癒したようにみえても、燻り型の持続や高齢化に伴う動脈硬化の関与などによる腎機能低下が発見されて多数の人が受療していることがうかがえる。



図2 糸球体腎炎発見のきっかけ
三浦正彦ほか:日本臨牀 51:384,1993 より引用改変


図3 IgA腎症発見の動機
折田義正ほか:腎機能(GFR)・尿蛋白測定ガイドライン
p14,東京医学社,2003より引用改変

 腎疾患は症状に乏しいので、学校や地域、職場などでの健診時の検尿異常(チャンス蛋白尿・血尿)が腎疾患発見のきっかけになることが多い。図22)に示すように、内科領域の50.1%、小児科領域の39.5%でチャンス蛋白尿・血尿が糸球体腎炎発見のきっかけとなっている。また、わが国において成人の原発性糸球体腎炎であるIgA腎症発見の動機をみると、図31)に示すように男性、女性ともに健診での検尿異常が圧倒的に多く、男性では74.0%、女性では68.2%、全体では71.2%が健診での検尿異常がIgA腎症発見の動機を占めている。いずれにしろ健診時の検尿は腎疾患発見の重要な役割を果たしているといえる。


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