腎臓の病気について調べる
5.糸球体腎炎
5.糸球体腎炎
- 1.IgA腎症
IgA腎症は、世界で最も多い腎炎で、特に日本を含む東アジアに多いとされます。尿に血が混じったり、蛋白尿がでたりします。未治療の場合、約4割の方が腎臓の機能が悪化し、透析に至ってしまう予後不良の疾患で、本邦では「指定難病」の一つになっています。しかし、その発症原因は未だ不明です。現在、診断には腎臓に針を刺す「腎生検」という検査が必須で、腎臓の「糸球体」という場所に、抗体の一種であるIgA(免疫グロブリンA)の沈着を確認することが必要です。最近の研究で、この沈着するIgAの一部に糖鎖修飾異常があり(糖鎖異常IgAといいます)、これが糸球体に沈着することで炎症が起こると考えられています。患者さんの血液の中に、この糖鎖異常IgAが増えていることがわかっています。治療には、ACE阻害薬やアンギオテンシンII受容体拮抗薬といった降圧薬や、ステロイドを含む免疫抑制薬などが用いられています。本邦では、扁桃摘出術+ステロイドパルスとの併用療法(扁摘パルス療法)が良好な治療効果を示しています。
- 2.急性糸球体腎炎
急性糸球体腎炎は扁桃炎などが治ってから10日前後経って発症する一過性の腎炎(糸球体の炎症)です。顔面・まぶた・足の浮腫(むくみ)、肉眼的血尿(尿が褐色・コーラ色になります)、尿量低下、高血圧などが主な症状です。A群β溶連菌が代表的な原因菌で小児~若年者に多くみられます。高度な血尿と蛋白尿をきたし、時に急激な腎機能低下を認めます。免疫物質である補体の低下や溶連菌感染を示すASO・ASK抗体価の上昇を認めます。症状と検査所見で診断しますが、他の腎炎との鑑別のために腎生検を施行することもあります。尿量減少、浮腫、高血圧に対しては安静と塩分・水分制限とし、一時的に利尿薬・降圧薬の投与を入院で行こともあります。発症後、時間の経過にともない、血尿、蛋白尿、腎機能は自然に改善する予後良好な疾患ですが、時に尿所見異常が持続し腎機能障害が残ることもあります。また、糖尿病などをもつ高齢者が、主にブドウ球菌の感染の進行中に腎炎の症状を発症することがあります。このような場合は、感染関連糸球体腎炎として感染の治療も行いますが、必ずしも予後は良好ではありません。
- 3.急速進行性腎炎
腎臓の働きが週から月の単位で悪くなっていくタイプの腎炎を急速進行性腎炎と呼びます。多くは全身倦怠感、持続する発熱や体重減少などの症状があるために医療機関を受診して、血尿や蛋白尿を認め、採血検査で腎臓の働きが悪くなると上昇してくるクレアチニンが日ごとに上昇してくることにより診断されます。腎生検という腎臓の一部を採って採取する検査で腎臓の組織を観察すると、多くの場合は強い炎症のために糸球体の毛細血管が破れ、半月体と呼ばれる細胞の増殖像や、組織の壊れた壊死とよばれる病変などが認められます。これを病理の診断名では壊死性半月体形成性腎炎と呼びます。原因となる病気は腎臓のみに炎症を起こす疾患群と全身の炎症の一部として腎臓を侵すものありますが、最も頻度が高いのは、全身の微細な血管の炎症をきたす「顕微鏡的多発血管炎」といわれる病気で血液中にANCA(アンカと読みます)といわれる抗体が認められることから「ANCA関連血管炎」の一つとされています(以下参照下さい)
https://jsn.or.jp/general/kidneydisease/symptoms06.php#p-004。比較的高齢の方に多く、時には肺の炎症を伴っている場合もあります。その他にも、急速進行性腎炎をきたすものがありますが、どのような原因疾患であっても、放置すると透析を必要とする腎不全に早くに陥るため、上記の症状などがあれば医療機関をすぐに受診し、診断がつけば、専門医のもとでステロイド薬などの免疫抑制療法を早急に始めることが必要です
- 4.微小変化型ネフローゼ症候群
大量の蛋白が尿に漏れ出て、血液の蛋白濃度が低下し、むくみを伴う病気をネフローゼ症候群といいます。腎臓の組織を調べる腎生検という検査を行うと、光学顕微鏡で観察した腎臓の糸球体には、ほとんど変化を認めないことから微小変化型といわれています。微小変化型ネフローゼ症候群の特徴として、若年者に多く、発症が急激ですが、副腎皮質ステロイド薬治療の反応が良好なことが挙げられます。花粉症、喘息、アトピー性皮膚炎などアレルギーのある方に比較的多くみられています。急にたくさんの蛋白が漏れ出るため、血管内は脱水になりやすく、腎臓の働きが急激に悪くなって、一時的に尿が出にくくなることがあります。通常、高用量の副腎皮質ステロイド薬治療により約2週間程度で蛋白尿は消失します。腎臓の機能が低下して、末期腎不全に至ることは少ないですが、副腎皮質ステロイド薬を減量すると約半数近くに再発がみられます。再発を防止するために免疫抑制薬(シクロスポリン、ミゾリビン、シクロホスファミド)やリツキシマブ治療の併用が行われることがあります。
- 5.膜性腎症
腎臓で尿を作る際に、ふるいの役割をするものを糸球体と呼びます。この糸球体の成分に対する抗体ができるために、ふるいが壊れて蛋白が尿に漏れてしまうタイプの腎炎が膜性腎症です。膜性腎症は悪性腫瘍や感染症や薬剤投与などに続発する二次性膜性腎症とPLA2R抗体やTHSD7A抗体などの自己抗体が原因となる一次性膜性腎症に大別されます。
膜性腎症の約7割は、大量の蛋白を尿中に失い、全身にむくみが出る病態(ネフローゼ症候群)を呈します。膜性腎症は、成人に発症するネフローゼ症候群の中で最も多くの割合を占め、特に40歳以上に多いとされます。膜性腎症を発症すると、10年で10%、20年で40%が重度の慢性腎不全になるという調査結果があります。中でも、蛋白尿が多い症例では腎機能が低下しやすいことがわかっています。膜性腎症の診断は腎生検に基づきます。近年では血液中の自己抗体を指標にした侵襲の小さい新しい診断法が登場しています。治療には、腎保護作用のある降圧薬に加え、ステロイド薬や免疫抑制薬が使われます。適切な治療を受ければ、約7割で蛋白尿が消失します。
- 6.膜性増殖性糸球体腎炎
腎臓の糸球体の基底膜が厚くなるとともに、メサンギウム細胞の数が増えるために、糸球体が分かれた葉っぱのように見える(糸球体の分葉化と言われています)比較的稀な糸球体腎炎です。診断には腎臓に針を刺す「腎生検」という検査が必要となります。小児から若年者におこることが多い膜性増殖性糸球体腎炎は、補体活性の調節異常が原因のことが多く、補体の異常によるものはC3腎症と呼ばれています。成人におこる膜性増殖性糸球体腎炎の半数以上は、C型肝炎患者などに見られる二次的なものです。リンパ腫や膠原病など様々な病気に合併しておこることも知られています。特発性膜性増殖性糸球体腎炎では、副腎皮質ステロイド、メチルプレドニゾロンパルス療法、ステロイドと免疫抑制薬の併用療法などが試みられています。
- 7.巣状分節性糸球体硬化症
尿へ大量の蛋白が漏れ、血液中の蛋白が減って全身がむくむ「ネフローゼ症候群」の原因となる病気の一つで、腎生検という検査で腎臓の組織を観察することで診断されます。発症からの経過・症状は微小変化型ネフローゼ症候群によく似ていますが、ステロイド薬による治療の効きが悪い場合がしばしばあり、腎機能が進行性に悪化する場合もあります。典型的なネフローゼ症候群を発症する原発性(一次性)の巣状分節性糸球体硬化症の他、肥満関連腎症、膀胱から尿が逆流することによって起こる逆流性腎症など、形態としては同じような変化が観察される続発性(二次性)巣状分節性糸球体硬化症もあり、治療法がそれぞれ異なります。
原発性の場合は、ステロイド薬や免疫抑制薬による治療が主軸となりますが、降圧薬(レニン・アンジオテンシン系阻害薬)・抗血小板薬・脂質異常症改善薬などの薬剤も治療に用いられます。