腎臓の病気について調べる

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9.小児の腎疾患

  • 1.先天性腎尿路異常(CAKUT)

先天性腎尿路異常(Congenital anomalies of the Kidney and Urinary Tract, CAKUT)は、腎臓や尿の通り道の尿管、膀胱、尿道の構造の先天的な異常の総称です。腎臓のサイズが小さい低形成腎、腎臓の実質のさまざまな形成異常を伴う異形成腎、腎の無形成といった腎臓そのものの異常に加え、尿の通過障害を来す後部尿道弁、腎臓からの尿の流れが障害されて生じる水腎症、膀胱から尿管へ尿が逆流する膀胱尿管逆流症などを含みます。それぞれの異常だけでなく、腎臓も含めて複数の異常を合併する事も有りCAKUTと総称されています。CAKUTは100人から500人に1人の発症とされていますが、腎機能が小児期に悪くなるのは10万人に4人程度で多く有りません。特に低形成腎、異形成腎は小児期の慢性腎臓病(小児CKDと言います)や透析や腎移植が必要となる腎不全の最大の原因疾患でその早期診断と適切な管理がとても重要です。診断のきっかけは様々ですが、胎児期に超音波で発見されることや出生後の尿路感染発症時や定期的検尿での異常やその他の病気にかかった時の採血や腹部超音波などで発見されることも多いです。また成長障害の原因として診断されることもあります。また一部のCAKUTは腎尿路以外の障害を伴う症候群に合併することもあります。

  • 2.嚢胞性腎疾患

嚢胞性腎疾患は、主に尿細管やボウマン嚢が拡張することによって多発性の嚢胞が形成されるものを指します。常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)やネフロンろうなどの遺伝子の異常によって起こる疾患に加えて、原因の特定できない先天性の腎尿路奇形(CAKUT)でも起こります。嚢胞が形成される機序は不明なものも多いですが、遺伝子の異常により生じる場合は、尿細管のうち集合管や遠位尿細管から嚢胞が発生することが多く、尿路通過障害によって起こる場合は糸球体に嚢胞を伴うことが多いことから、前者では特定の尿細管上皮細胞の機能異常、後者では貯留による嚢胞形成が原因と推察されています。嚢胞が拡大することに伴い、機能しているネフロンの数が減少するとともに間質に線維化が起こり、腎実質は萎縮し慢性腎不全に至ります。小児の嚢胞性腎疾患患者は、腎臓以外の奇形や臓器障害を伴うこともあり、全身検索が必要となります。腎機能低下を阻止する有効な方法は現在では見つかっておらず、保存的治療が行われています。

  • 3.尿細管障害

尿細管は糸球体で血液から濾過されて作られた原尿の中から、体に必要な成分は再吸収して血液中に戻し、また不要な成分は尿として排出するという役割をしています。水分・電解質(ナトリウム、カリウム、クロール、カルシウム、リン、マグネシウムなどのイオン)・糖、アミノ酸、蛋白質などの成分が尿細管で調節を受けます。
尿細管と尿細管の間の組織を間質と呼びますが、尿細管や間質に炎症が起こると(尿細管間質性腎炎)、尿細管の機能が低下して必要な電解質や蛋白質が尿に排泄されてしまいます。また生まれつき尿細管の機能に異常がある場合には、体の水分や電解質のバランスが崩れたり、体が酸性やアルカリ性に傾いたりすることがあります。電解質異常に伴い、骨の異常をきたしたり、腎機能が悪化することもあります。尿細管の機能に異常がある場合にはその原因を突き止め、体内の水分や電解質のバランスを保つために足りない物質を補給するなどの治療が必要になります。

  • 4.遺伝性糸球体疾患(アルポート症候群など)

アルポート症候群は遺伝性の病気で、1)腎臓病、2)難聴、3)角膜の異常や白内障などの目の症状を認めます。遺伝性腎疾患の中では多発性嚢胞腎という病気に次いで、2番目に多い病気です。遺伝の形式に従って3つのタイプ(X染色体連鎖型、常染色体劣性、常染色体優性)に分類され、それぞれ重症度が異なります。一番患者さんが多いのが、X染色体連鎖型というタイプで、男性では女性よりも圧倒的に重症の症状を認めます。男性では平均30歳前後で腎不全へと進行し、透析や腎移植を必要とします。また難聴も高頻度に合併します。一方、女性では平均65歳前後で腎不全へと進行しますが、一生腎不全へと進行しない患者さんもいます。逆に、まれではありますが、女性においても20歳台から30歳台と若くして腎不全へ進行する患者さんもいます。どのタイプのアルポート症候群の患者さんでも、4型コラーゲンの一部を作る働きをする遺伝子に生まれつきの異常があるため、正常な4型コラーゲンを作ることができません。4型コラーゲンは、腎臓、内耳、目でその構造を保つための重要な役割をしているため、4型コラーゲンを作れないアルポート症候群の患者さんでは、腎臓病、難聴、目の病気などを認めます。
腎臓においては、4型コラーゲンは糸球体基底膜という血液から尿をろ過する膜の重要な成分ですが、アルポート症候群の患者さんでは、糸球体基底膜がうまく形成されないため、若いときから尿に血液や蛋白が混じり、次第に腎不全へと進行します。
遺伝子の異常に伴う病気ですので、根本的な治療法は存在しませんが、血圧を下げるための薬剤であるACE阻害薬やアンギオテンシン受容体拮抗薬はアルポート症候群の腎不全進行を遅らせることが可能です。

  • 5.糸球体腎炎治療(IgA腎症、MCNSなど成人との治療の違い)

小児のネフローゼ症候群
ネフローゼ症候群は大量の蛋白尿とそれに伴う低蛋白血症をきたす病気です。小児のネフローゼ症候群なかでは微小変化型が最多で、2歳~6歳の小児に多く発症します。治療の第一選択薬は成人と同様にステロイドですが、投与量や投与期間が成人とは異なります。小児の場合には、全世界的に、国際小児腎臓病研究の治療プロトコールに準じて治療を行なうのが一般的です。小児微小変化型ネフローゼ症候群の約90%はステロイドに反応し、治療開始後約1カ月以内にたんぱく尿は陰性化します(ステロイド感受性ネフローゼ症候群とよびます)。しかし、ステロイドの減量・中止後に再発することが多く、多くの患者さんは再発を経験します。ステロイド減量中または中止後14日以内に2回連続して再発する場合はステロイド依存性、任意の12カ月以内に4回以上再発する場合は頻回再発型とよびますが、これらの症例ではステロイドの副作用が問題になるため、腎臓専門医による治療が必要です。

小児の慢性糸球体腎炎(まんせいしきゅうたいじんえん)
慢性糸球体腎炎は、血尿、蛋白尿が持続し、適正な治療がおこなわれないと腎不全に進行する病気です。IgA血管炎(以前は、紫斑(しはん)病性腎炎とよばれていました)とIgA腎症が、小児の代表的な慢性糸球体腎炎です。

1) IgA血管炎
紫斑、腹痛、関節痛を認め、4~10歳の小児に好発します。多くの場合、通常3~6ヶ月以内に回復過程に向かう点が大きな特徴です。そのため、発病初期に重症度を正確に診断することが大切で、適宜、腎生検(じんせいけん)を実施します。そして重症度に応じて、ステロイド、ステロイドパルス療法、代謝拮抗薬(シクロフォスファミド、ミゾリビン)、カルシニューリン阻害薬、抗凝固薬、抗血小板薬などを組み合わせて治療します。なお、治療法に関して成人と大きな違いはありません。

2) IgA腎症
わが国の小児IgA腎症の大部分は、無症状のまま学校検尿で尿異常(血尿やたんぱく尿)を指摘されて発見されます。好発年齢は10歳代以降で、診断には腎生検が必須です。重症度に応じた治療はIgA血管炎と同様ですが、IgA血管炎と比べて経過がとても長いことが特徴です。思春期(成長期)にはできるだけステロイドは使わない、思春期以降の男児にはシクロフォスファミドは使わないなど、薬の副作用に注意する必要があります。また、成人期まで見通した治療計画が大切で、成人診療科(腎臓内科)へスムーズにバトンタッチできるよう、早めから準備することが大切です(この診療プロセスを移行期医療とよんでおり、この移行期医療の啓発・普及を目指して、腎臓内科医と小児科医が協調して活動を進めています)。

  • 6.HUS, aHUS

溶血性尿毒症症候群(HUS)は細血管障害性の溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害の3症状を示す病気です。従来、HUSは下痢、血便をともなう腸管出血性大腸菌による典型的なHUS(STEC-HUS)と、下痢がみられないHUS、非典型HUS(aHUS)に大別されてきました。最近、HUSとaHUSは共に血栓性微小血管症(TMA)という共通した組織障害所見をもとに発病すると考えられています。また、代謝異常症、感染症、薬剤性障害、自己免疫性疾患、悪性腫瘍、HELLP症候群、移植後臓器障害など色々な病気のために二次性TMA状態になることも知られています。そこで現在では、TMA障害所見を示す病気の中で、STEC-HUS、血栓性血小板減少性紫斑病、二次性TMAを除外した、補体異常によるTMAがaHUSと診断されます。aHUS患者の60%程度に補体調節因子の遺伝子異常が見つかります。最近になり、aHUS患者では補体調節異常を抑制する抗補体薬で治療できるようになりました。

  • 7.移行医療

思春期・青年期に達した小児期発症慢性腎臓病患者さんは、年齢にふさわしい医療を受けるために小児科から成人科に転科することが推奨されています。成人科に転科が必要な小児科側の理由には、成人発症の疾患に対応ができない、妊娠・出産の問題に対応できない、成人が小児科病棟に入院できないなどの問題があげられます。
また、自立可能な思春期・青年期の患者さんが、両親の管理から離れ、自己管理の下で成人科に転科するときには様々な問題に直面します。就学・就職に問題があったり、適切な医療の継続が妨げられ病状が悪化したりすることは避けなくてはいけません。そのため、患者さんの社会的自立を促し、疾患に対する自己管理能力を育成する移行プログラムを以て転科させる移行医療の重要性が注目されています。ただし、複雑尿路奇形や精神運動発達遅滞児などでは、小児科医の併診が必要な患者さんもいます。