腎臓の病気について調べる
10.腎移植
10.腎移植
- 1.ドナーとレシピエント
腎移植は、腎臓を提供する方(ドナー)と腎臓をもらう方(レシピエント)の間で行われる医療です。腎移植ドナー条件(できれば、腎移植ドナー条件へとリンクする)を満たしたドナーの方自身とその家族の方の善意により腎臓は提供されます。レシピエントの方は、透析医療を受けている状態、または透析医療が必要となる直前の状態であれば腎移植を受けることができます。
家族の方から腎臓の提供を受ける生体腎移植では、事前に家族内でよく相談をしたうえで、ドナーとレシピエントの双方が移植施設を受診して、必要な諸検査を受けます。腎移植医療は健康保険の適用範囲で行われます。移植後のドナーとレシピエントの生活に関する情報は、腎臓内科医、透析医あるいは移植医から受けてください。術後は、ドナーとレシピエントともに医療施設で定期的な管理を受けていただく必要があります。
- 2.生体腎移植と献腎移植
腎移植には、親族から腎臓を提供していただく生体腎移植と、亡くなった方から腎臓を提供していただく献腎移植があります。健康な体にメスを入れる生体腎移植よりも、亡くなった方から提供していただく献腎移植の方が望ましいのですが、本邦では生体腎移植が腎移植全体数の約85%を占めています。
生体腎移植のうち多くは親から子への提供ですが、近年は夫婦間での腎移植が増えています。これは免疫抑制療法の進歩によりABO型やHLA型が全く異なっていても問題なく腎移植ができるようになってきたこと、腹腔鏡手術や周術期管理の進歩により高齢者の手術が安全にできるようになってきたことによります。生体腎移植の利点は、予定手術であるため、術前の検査や処置に十分時間をかけ、拒絶反応を生じやすい高難度の腎移植を行うことができることが利点です。
一方、献腎移植(死体腎移植)については、約12,000人の腎不全患者さんが献腎移植を希望して日本臓器移植ネットワークに登録されています。このうち腎移植を受けることができる患者さんは毎年約1~2%です。実際に移植を受けた患者さんの登録から移植までの平均待機期間は約15年間です。献腎移植はいつ提供していただけるかわかりませんので、臓器提供が決まってからでは十分な術前検査をする時間はありません。臓器提供の貴重な申し出をいつでも活かせるように、万全な準備を日頃からしておくために、登録更新外来を毎年受診していただき、術前検査をしておくことが必要です。
- 3.腎移植の禁忌
日本移植学会のレシピエント適応基準には、1)近い将来に透析導入が必要となる保存期腎不全やすでに維持透析施行中であること、2)全身感染症がないこと、3)活動性肝炎がないこと、4)悪性腫瘍がないこと、とされています。移植術を受け、移植後も免疫抑制薬を服用し続けられることができる状態にあるか、ということも重要です。
手術を受けるには十分な心・肺機能があることが必要です。また、癌を有していないことも確認します。癌の既往歴があっても完治している場合、癌の種類によって早期癌で治療後早期に移植可能と判断することもあります。さらに、肝炎治療が進歩し、移植前あるいは移植後に治療することもあります。
主な腎移植禁忌条件として、1)心・肺機能の著しい低下、2)著しい全身動脈硬化(移植腎血管吻合可能部位がない)、3)全身衰弱、4)結核などの活動性感染、4)ドナーHLA抗体強陽性で治療しても抗体除去できない、5)精神疾患などで治療が理解できない、などがあります。
- 4.腎移植ドナーの条件
生体腎ドナーの適応については、基本的条件として原則、6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族に限定されます。そして、精神科医などの第3者による自己意思による提供であることの確認と腎提供に相応しくない心理的、社会的背景が無いこと確認します。基本となる適応基準(括弧内は万全とはいえないが、可能な基準を示しています。いわゆるマージナルドナー)として、年齢は20歳以上70歳以下(80歳以下)、血圧140/90mmHg未満(降圧薬使用例では130/80mmHg以下)、肥満がなくBMI 30kg/m2以下(肥満があっても32kg/m2以下)、GFR 80mL/min/1.73m2以上(70mL/min/1.73m2以上)、蛋白尿150mg/day未満(あるいはアルブミン尿が30mg/gCr未満)、糖尿病がなくHbA1c(NGSP) 6.2%以下(経口薬使用例ではHbA1c (NGSP) 6.5%以下、インスリン使用例は適応外)などが必要とされています。詳細は、日本移植学会ホームページ、生体腎移植のドナーガイドラインを参照してください。
- 5.腎移植レシピエント手術
レシピエントの方の手術は全身麻酔下で行われます。生体腎移植術の場合も献腎移植術の場合も手術方法に大きな違いはありません。成人の方の場合は、巨大な多発性囊胞腎があるなどして移植腎を体内に置くスペースがない場合を除き、ご自身の腎臓を摘出することはありません。小児の方の場合では、成人ドナーからの腎移植を受ける際に、移植腎を置くスペース確保のために自己腎を摘出することがあります。成人の場合では、移植腎の腎動脈と御自身の内腸骨動脈もしくは外腸骨動脈を吻合(血管などをつなぐこと)します。腎静脈は御自身の外腸骨静脈と吻合します。小児の方の場合は、総腸骨動脈、大動脈、下大静脈に吻合することがあります。尿管は御自身の膀胱と新たに吻合する事が一般的ですが、萎縮膀胱の場合などでは、御自身の尿管と吻合することがあります。血流再開後、生体腎移植術の場合は数分後に尿が作られるのが一般的です。献腎移植で腎臓への血液の流れを止めている時間が長い場合には移植腎からしっかり尿が生成されるのに数日〜数週間かかる場合もあります。
- 6.腎移植ドナー手術
生体腎移植のドナー(腎提供者)の手術では、腰背部に左右1つずつある健常な2つの腎臓のうちどちらか1つを、親族のレシピエント(末期腎不全の受腎者)に提供するため採取します。手術時やその後の生涯にわたって問題が生じないか十分に術前評価を行い、大丈夫と判断された成人だけが腎提供できます。
大きく皮膚を切る開放手術と傷の小さな腹腔鏡手術がありますが、本邦では負担の少ない腹腔鏡手術が普及しています。術後1週間程度で退院して、復職など術前と同じ生活ができます。ドナーの腎臓も1つになるので、年に一度は定期的な検査が必要です。
- 7.免疫抑制療法
私たちの身体は、ウイルスや細菌を自分以外のよそ者として排除する免疫機構が備わっています。ところが、この免疫機構は、せっかく大切なドナーからもらった腎臓も攻撃してしまいます。これを拒絶反応といいます。そのため、腎移植を受けた人は、免疫抑制薬を内服しなくてはなりません。近年、免疫抑制薬の進歩によって、拒絶反応を効率的に抑えることが出来るようになりました。腎移植を受けた人は、複数の種類の免疫抑制薬を飲んで頂きます。これは、複数の薬を少量ずつ内服することで、拒絶反応を抑える効果を変えずに、副作用を少なくすることができます。免疫抑制薬は、毎日ある程度決まった時間に内服することが大切です。自分の判断で、勝手に止めることがないようにします。免疫抑制薬の内服を勝手に止めてしまうと、せっかくもらった腎臓が拒絶反応ですぐに働かなくなってしまい、また、透析治療を受けなくてはならなくなります。免疫抑制薬の主な副作用は、感染と悪性腫瘍です。感染予防のために、手洗いやうがいをし、なるべく人混みを避けてマスクを着用するようにします。免疫抑制薬の内服が多い時は、刺身や寿司など生ものも避けるようにします。また、発熱等の感染症状が出てきた場合には、早めにかかりつけの先生に診てもらうようにしましょう。悪性腫瘍に関しては、毎年健康診断を受けるなどして、早期発見に努めます。
- 8.腎移植レシピエントの生活
腎移植後には、腎不全による体調不良が改善し、透析による時間的な制約もなくなるため、腎移植レシピエントの身体的・精神的・社会的な生活の質は向上します。移植後安定期には1~3か月毎の通院継続は必要となりますが、基本的には健康な人と同じように特に大きな制限なく日常生活を送れるようになります。注意点は免疫抑制薬の内服を必ず行い、減塩を心掛け、禁煙や肥満にならないように注意し、適度な運動を行うという良い生活習慣の維持が重要です。状態が落ち着いていれば、移植後約1ヶ月程度で復学・就職・社会復帰も可能です。しかし、腎移植後の生活では注意すべき点がいくつかあります。特に、免疫抑制薬を服用しているので、感染に対する予防が重要です。海外旅行は基本的に自由に行うことができますが、免疫抑制状態であるため感染に対する注意が必要であり、感染リスクの高い地域はできるだけ避ける、手洗い・アルコール消毒励行、ワクチンで予防できるものは接種するなどの配慮は必要です。また免疫抑制薬の影響で悪性腫瘍の発症率がわずかながら高まります。移植後は、過度な日光浴は避け全身の皮膚を定期的に観察し(皮膚がんの観察)、年齢相応のがん検診(子宮・乳がん検診、便潜血など)を積極的に受けるようにします。妊娠・出産を希望する女性の腎不全患者さんでは、腎移植を行うことで妊娠率が上がり、安全な出産・妊娠も可能となります。妊娠希望の際は免疫抑制薬や降圧薬を変更しなければなりませんので、計画的な準備が必要です。また免疫抑制薬を内服しながらの授乳も可能です。
- 9.腎移植を受けた後のフォロー
腎移植を受けたあとは移植腎の機能を長期にわたって悪化させないように管理していくことが大切です。拒絶反応を起こさないために免疫抑制薬を服用していただき、血液検査や尿検査を定期的に行って移植腎機能をチェックしていきます。免疫抑制療法は少なすぎれば拒絶反応を引き起こし、多すぎれば感染症や薬の副作用、悪性腫瘍の危険もでてくるため、適正な免疫抑制療法ができているかの確認は常に必要です。移植腎機能が悪くなる原因は拒絶反応だけでなく、免疫抑制薬の副作用や腎不全の原因となったもとの腎臓病の再発などもあり、きちんと診断して治療することが移植腎を守るために重要で移植腎生検という検査が必要です。また腎移植後の合併症による死亡を防ぐためには、感染症の予防、がん検診を受けること、高血圧、糖尿病、肥満など生活習慣病のリスク因子を管理することが重要です。
- 10.腎移植ドナーの予後
生体腎ドナーは片方の腎臓をレシピエントに提供しますが、残ったもう片方の腎臓では血流が増え、腎臓自体もゆっくり肥大します。最終的な腎機能は提供前の70~75%程度に落ち着くため、ほとんどの方が提供前と同じような生活ができます。ただし、1つになった腎臓に何らかの病気が起こると腎機能が低下して透析療法が必要となる可能性があります。海外の報告によるとその頻度は約0.3%といわれており、わが国でも調査を開始しました。生体腎ドナーには中高年の方が多いため、提供時は健康でも、後に高血圧、高尿酸血症(痛風)、肥満、糖尿病、脂質異常を発症することがあります。生体腎提供後も一般的な生活習慣病の予防(禁煙、適度な運動、肥満の解消など)を心掛けます。生体腎ドナーの生活習慣病の診断と治療は大変重要で、わが国の腎移植施設ではドナーにも年1回通院頂く、遠方で通院困難な場合は地域にかかりつけ医を持って頂くなど、健康管理に力を入れています。