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6.全身性疾患に伴う腎障害
- 1.糖尿病性腎症
糖尿病の高血糖などにより生じる重要な腎臓の合併症です。神経障害、網膜症と並んで3 大合併症と言われています。現在、新たに透析が必要となる腎臓病として第1位です。そのため、糖尿病性腎症の予防や克服は重要な課題になっています。典型的な経過としては、糖尿病を発症したのちに、微量アルブミン尿がみられ、蛋白尿・腎機能低下を経て末期腎不全に至ります。糖尿病性腎症が進むうちに、心血管系疾患の発症のリスクも高まります。したがって、早期の発見・治療が重要です。早期診断のために検尿、尿アルブミン測定が必要となります。治療においては、食事療法、運動など生活習慣の改善、適切な血糖コントロール、血圧管理、脂質管理など包括的に進めていきます。
- 2.ループス腎炎
ループス腎炎は、全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus:英語の頭文字をとってSLEと呼ばれます)の患者さんに生じる腎炎です。SLEは若年から中年の女性に多くみられる病気で、国内に6~10万人の患者さんがいます。SLEの患者さんでは、病原体などから体を守る免疫の働きに異常が生じ、免疫が自分自身の体を攻撃することで、全身に炎症が起こります。皮膚に赤い発疹がでたり、関節痛、発熱、倦怠感などがみられたりします。内臓もしばしば障害され、特に腎臓は障害されやすい臓器で、SLE患者さんの半分以上にループス腎炎がみられます。腎炎初期には尿検査を行うとタンパク尿や血尿がみられ、進行すると腎機能が低下し、なかには透析が必要になることもあります。しかし、ステロイド薬や免疫抑制薬による治療を適切に行うことで、多くの患者さんでは、腎臓を正常あるいは正常に近い状態に保つことができます。
- 3.アミロイドーシス
アミロイドーシスは、体で分解されにくい繊維状の蛋白質(アミロイド)が体内に沈着・蓄積することで生じる病気の総称です。アミロイド前駆蛋白と沈着臓器により、さまざまなタイプに分けられます。認知症の原因となるアルツハイマー病もその一つです。
アミロイドが腎臓に沈着した場合、腎機能障害や高度の蛋白尿を合併し、難治性ネフローゼを呈します。腎臓に沈着しやすいタイプとしては、骨髄由来の免疫グロブリン軽鎖によるALアミロイドーシス(原発性アミロイドーシス)や、リウマチなどの慢性炎症に続発する炎症性アミロイドーシス(AAアミロイドーシス, 2次性アミロイドーシス)があります。確定診断には腎生検などの組織検査が必要です。
アミロイドが複数臓器に沈着した場合を全身性アミロイドーシスと呼びます。徐々に病状が進行する場合が多く、積極的治療の対象になります。以前は予後不良な難治性疾患とされていましたが、近年では、ALアミロイドーシスの場合は骨髄細胞を標的とした抗がん剤治療または幹細胞移植との併用療法、炎症性アミロイドーシスの場合は分子標的薬(生物学的製剤)治療などが行われ、治療成績は以前より大きく向上してきています。
- 4.ANCA関連血管炎
ANCA関連血管炎は、血液の中にANCA(アンカと読みます)という抗体が認められる血管炎です。好中球は血液の中にある細胞で、細菌などの外敵が体の中に侵入した時に外敵を攻撃して体を守る細胞ですが、ANCAという抗体が好中球に結合することと好中球の活動が過剰になり、自分の体にある血管、とくに毛細血管など細い血管を攻撃して出血や閉塞をきたす、血管炎が起こります。
いろいろな臓器で血管炎が起こりますが、特に腎臓の血管炎では、数週間から数カ月の間に急激に腎臓の働きが悪くなることがあり(急速進行性糸球体腎炎症候群)、重症の場合には透析治療が必要になったり、命の危険もあります。ANCA関連血管炎は早期発見や治療法の進歩で死亡率や透析導入率は、かなり改善してきています。
- 5.抗糸球体基底膜腎炎
抗糸球体基底膜腎炎は糸球体腎炎のうちで、糸球体基底膜の4 型コラーゲンに対する抗体(抗基底膜抗体といいます)が糸球体に沈着するために、糸球体を中心に炎症が起こり、急速に腎機能が低下する病気です。腎生検という検査を行うと、多くの糸球体に半月体という細胞の増殖する構造物が観察されるため、半月体形成性壊死性糸球体腎炎とよばれています。非常にまれな病気であり、日本全体で毎年100人程度の新たな発症があると推定されています。またこの病気にかかるのは小児から高齢者までみられますが、中高年に多い傾向にあります。目にみえる血尿が出現したり、尿量が減少することがあります。病気のなり始めには、微熱、だるさ、食欲がないなどの全身の症状しかないことがありますが、病気が進行すると、吐き気、息苦しさ、むくみなどが出現します。
治療法としては腎臓におこる強い炎症を治療するために、ステロイド薬、免疫抑制薬などを使います。また、血液成分を交換する治療法(血漿交換)を行うこともあります。進行した腎不全の状態であれば、血液透析を併用します。
この病気は予後が悪い腎臓の病気の一つであり、継続的な血液透析が必要となる患者さんが多くみられますが、早期に発見し治療を開始すれば、病気の進行を止めることができます。しかし、経過中に肺出血を併発することもありますので、注意が必要です。
- 6.紫斑病性腎炎
紫斑病は、通常は風邪などの上気道感染に引き続き、下肢伸側を中心に左右対称に紫斑(血管の異常による皮下の点状出血斑)の出現をみるとともに、しばしば関節痛や腹痛をともなう、比較的小児に多い病気です。そのうち20~50%の方で、血尿・蛋白尿などの尿異常を認め、紫斑病性腎炎と呼ばれています。通常、この腎炎は全身症状発症後の数日から1カ月以内に出現し、自然に治癒します。しかし、時に尿異常の持続や腎機能の低下(血清クレアチニン値の上昇)をきたすことがあり、この場合腎臓専門医による治療・管理が必要となります。なお、この病気は国際的にはIgA血管炎とも呼ばれており、慢性腎炎の中で最も頻度の高いIgA腎症とよく似ていますが、腎臓以外の症状も出現する点が特徴です。
- 7.痛風腎
痛風による腎障害(痛風腎)は痛風や高尿酸血症がコントロールされずに長期間持続することによって発症する腎障害です。高尿酸血症が長期間持続し、尿酸塩が腎臓の深部の髄質に結晶となって析出するために生じる慢性間質性腎炎が痛風腎の本態です(これを狭い意味での痛風腎といいます)。また、痛風には数多くの生活習慣病(高血圧、脂質異常症、耐糖能異常、メタボリックシンドロームなど)がしばしば複数合併します。これらの生活習慣病による腎臓の障害が痛風腎に加わってきます(これを広い意味での痛風腎といいます)。痛風腎に特徴的な臨床症状や検査所見はなく、慢性糸球体腎炎や高血圧による腎障害などのような通常の慢性腎臓病でみられる症状(蛋白尿、血尿、腎機能低下など)を示します。痛風腎の予防・治療には高尿酸血症を是正することと、合併する生活習慣病対策が重要となります。
- 8.多発性嚢胞腎
多発性嚢胞腎とは、両方の腎臓に嚢胞がたくさんできる病気です。親から子へ遺伝する病気で、その遺伝のしかたで、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)と常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)にわけられます。ARPKDはおもに生まれた時に発症し、腎嚢胞の他に肝線維症を伴います。ADPKDは年をとるとともに嚢胞が大きくなり、数も増え、腎臓の働きが悪くなってしまい、70才までに半数の方が末期腎不全になり、人工透析を必要とします。まだ若い時には自覚症状がないことが多いですが、嚢胞が大きくなるについて、背中の痛みや血尿、おなかまわりが太くなるなどの症状がでてくることがあります。高血圧を合併することが多く、きちんと治療することが必要です。脳動脈瘤も合併することが多く、定期的な検査がすすめられています。最近になりADPKDの進行を抑えるための治療薬が使用できるようになりましたので、嚢胞腎について十分な知識をもった医師とよく相談して下さい。
- 9.ファブリー病
ファブリー病は,細胞に存在する特定のタンパク質の働きが悪くなって臓器障害が起こる病気です.ファブリー病は,遺伝子の異常で起こるため,親から子に遺伝する可能性があります.この病気は幼少時に発症すると考えられていましたが,大人になってから発病するタイプがあることが最近わかってきました.ファブリー病に対する画期的な治療(酵素補充療法)が開発されましたが,ファブリー病があるのに適正に診断されず,この治療を受けることなく臓器障害が悪化している患者さんが数多くおられます.
腎臓はファブリー病でしばしば障害される臓器です.ファブリー病で腎臓が悪くなると,早期には蛋白尿が出現します.これを放置しておくと,しだいに腎臓の働きが悪くなり,透析や腎移植などの治療が必要となります.臓器障害の悪化を抑えるには,ファブリー病を早期に発見して治療を開始することが重要と考えられています.
- 10.IgG4関連腎臓病
"IgG4関連疾患"は21世紀に入ってから日本で最初にその存在に気づかれた、原因不明の疾患です。一見腫瘍のように臓器が腫れ、顕微鏡でみるとリンパ球と形質細胞、線維成分がたくさん見られます。血液検査で免疫グロブリン(Ig)という蛋白のIgG4の成分が増加し、組織中に入り込んだIgを産生する形質細胞の多くがIgG4染色で陽性になることで診断されます。当初自己免疫性膵炎(膵臓)、ミクリッツ病(涙腺、顎下腺の対称性腫脹)で気づかれた病態ですが、その後全身(リンパ節、腎臓、後腹膜、肺など)でみられることがわかり、場所にもよりますが、圧迫症状や臓器の機能低下を引き起こします。腎臓では間質性腎炎(腎臓の間質に細胞浸潤と線維化)が主な病変で、腎機能低下につながります。IgG4関連腎臓病は中高年男性に好発し、自覚症状は乏しく、多くは腎機能低下や腎臓の形態異常として偶然発見されます。副腎皮質ステロイド薬が著効しますが、薬を減らすと再燃しやすいのが問題です。