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9.小児の腎疾患
- 1.先天性腎尿路異常(Congenital anomalies of the Kidney and Urinary Tract)
先天性腎尿路異常(Congenital anomalies of the Kidney and Urinary Tract, CAKUT)は,腎臓のサイズが小さい低形成腎,腎臓の実質のさまざまな形成異常を伴う異形成腎,腎の無形成といった腎臓そのものに異常に加え,尿道の通過障害を来す後部尿道弁や様々な尿路の障害による閉塞性の尿路疾患などを含む腎尿路の構造異常を指す概念です.特に低形成腎,異形成腎は小児期の慢性腎臓病(小児CKDと言います),あるいは透析や腎移植が必要となる末期腎不全(ESKD)の最大の原因疾患でその早期診断と適切な管理がとても重要です.診断の契機は様々ですが,3歳児検尿や学校検尿以外に,尿路感染症発症時や採血,腹部超音波などで偶然されることも多いです.また成長障害の原因として診断されることもあります.
- 2.嚢胞性腎疾患
嚢胞性腎疾患は、主に尿細管やボウマン嚢が拡張することによって多発性の嚢胞が形成されるものを指します。常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)やネフロンろうなどの遺伝子の異常によって起こる疾患に加えて、原因の特定できない先天性の腎尿路奇形(CAKUT)でも起こります。嚢胞が形成される機序は不明なものも多いですが、遺伝子の異常により生じる場合は、尿細管のうち集合管や遠位尿細管から嚢胞が発生することが多く、尿路通過障害によって起こる場合は糸球体に嚢胞を伴うことが多いことから、前者では特定の尿細管上皮細胞の機能異常、後者では貯留による嚢胞形成が原因と推察されています。嚢胞が拡大することに伴い、機能しているネフロンの数が減少するとともに間質に線維化が起こり、腎実質は萎縮し慢性腎不全に至ります。小児の嚢胞性腎疾患患者は、腎臓以外の奇形や臓器障害を伴うこともあり、全身検索が必要となります。腎機能低下を阻止する有効な方法は現在では見つかっておらず、保存的治療が行われています。
- 3.尿細管障害
尿細管は糸球体で血液から濾過されて作られた原尿の中から、体に必要な成分は再吸収して血液中に戻し、また不要な成分は尿として排出するという役割をしています。水分・電解質(ナトリウム、カリウム、クロール、カルシウム、リン、マグネシウムなどのイオン)・糖、アミノ酸、蛋白質などの成分が尿細管で調節を受けます。
尿細管と尿細管の間の組織を間質と呼びますが、尿細管や間質に炎症が起こると(尿細管間質性腎炎)、尿細管の機能が低下して必要な電解質や蛋白質が尿に排泄されてしまいます。また生まれつき尿細管の機能に異常がある場合には、体の水分や電解質のバランスが崩れたり、体が酸性やアルカリ性に傾いたりすることがあります。電解質異常に伴い、骨の異常をきたしたり、腎機能が悪化することもあります。尿細管の機能に異常がある場合にはその原因を突き止め、体内の水分や電解質のバランスを保つために足りない物質を補給するなどの治療が必要になります。
- 4.遺伝性糸球体疾患(アルポート症候群など)
遺伝性糸球体疾患には、アルポート症候群、遺伝性巣状糸球体硬化症などがありますが、最も頻度の高い遺伝性糸球体疾患であるアルポート症候群について説明します。
アルポート症候群は遺伝性、進行性の糸球体腎炎に感音性難聴や眼合併症を認めることを特徴とします。日本にはおよそ1,200人いると推定されていますが、これはあくまで治療あるいは経過観察を受けている患者の推定数です。
現時点で根治的治療法はありませんが、アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の内服による腎保護は有用とされており、一般的には血尿に加え、尿蛋白を認めた時点で治療開始すべきと考えられています。また、最近の海外におけるガイドラインでは、男性患者においては診断がつき次第、たとえ尿蛋白を認めない場合でも治療は開始すべきと記載されています。
- 5.糸球体腎炎治療(IgA腎症、MCNSなど成人との治療の違い)
小児のネフローゼ症候群
ネフローゼ症候群は大量のたんぱく尿とそれに伴う低たんぱく血症をきたす病気です。小児のネフローゼ症候群なかでは微小変化型が最多で、2歳~6歳の小児に多く発症します。治療の第一選択薬は成人と同様にステロイドですが、投与量や投与期間が成人とは異なります。小児の場合には、全世界的に、国際小児腎臓病研究の治療プロトコールに準じて治療を行なうのが一般的です。小児微小変化型ネフローゼ症候群の約90%はステロイドに反応し、治療開始後約1カ月以内にたんぱく尿は陰性化します。しかし、ステロイドの減量・中止後に再発することが多く、多くの患者さんは再発を経験します。そのため、ステロイドの副作用に注意しながら根気よく治療に取り組むことが大切です。
小児の慢性糸球体腎炎(まんせいしきゅうたいじんえん)
慢性糸球体腎炎は、血尿、たんぱく尿が持続し、適正な治療がおこなわれないと腎不全に進行する病気です。紫斑(しはん)病性腎炎とIgA腎症が、小児の代表的な慢性糸球体腎炎です。
1) 紫斑病性腎炎
紫斑、腹痛、関節痛を認め、4~10歳の小児に好発します。多くの場合、通常3~6ヶ月以内に回復過程に向かう点が大きな特徴です。そのため、発病初期に重症度を正確に診断することが大切で、適宜、腎生検(じんせいけん)を実施します。そして重症度に応じて、ステロイド、ステロイドパルス療法、代謝拮抗薬(シクロフォスファミド、ミゾリビン)、カルシニュニン阻害薬、抗凝固薬、抗血小板薬などを組み合わせて治療します。なお、治療法に関して成人と大きな違いはありません。
2) IgA腎症
わが国の小児IgA腎症の大部分は、無症状のまま学校検尿で尿異常(血尿やたんぱく尿)を指摘されて発見されます。好発年齢は10歳代以降で、診断には腎生検が必須です。重症度に応じた治療は紫斑病性腎炎と同様ですが、紫斑病性腎炎と比べて経過がとても長いことが特徴です。思春期(成長期)にはできるだけステロイドは使わない、思春期以降の男児にはシクロフォスファミドは使わないなど、薬の副作用に注意する必要があります。また、成人期まで見通した治療計画が大切で、成人診療科(腎臓内科)へスムーズにバトンタッチできるよう、早めから準備することも大切です。
- 6.HUS, aHUS
溶血性尿毒症症候群(HUS)は細血管障害性の溶血性貧血,血小板減少,急性腎障害の3症状を示す病気です。従来、HUSは下痢、血便をともなう腸管出血性大腸菌による典型的なHUS(STEC-HUS)と、下痢がみられないHUS、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)に大別されてきました。最近、HUSとaHUSは共に血栓性微小血管症(TMA)という共通した組織障害所見をもとに発病すると考えられています。また、代謝異常症、感染症、薬剤性障害、自己免疫性疾患、悪性腫瘍、HELLP症候群、移植後臓器障害など色々な病気のために二次性TMA状態になることも知られています。そこで現在では、TMA障害所見を示す病気の中で、STEC-HUS、血栓性血小板減少性紫斑病、二次性TMAを除外した、補体異常によるTMAがaHUSと診断されます。aHUS患者の60%程に補体調節因子の遺伝子異常が見つかります。