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初心者のための腎臓電顕図譜復刻パワーポイント版発行に寄せて
このたびは、腎臓電顕図譜復刻版の刊行、まことにおめでとうございます。
腎臓領域における臨床では他領域と比べて、形態学は極めて重要な位置を占めています。
特に腎炎やネフローゼ、膠原病や血管炎などの腎実質性疾患では腎生検による組織診断が、治療法の選択や予後の推定にほぼ不可欠な情報になっています。最近の厚生労働省進行性腎障害研究班の疫学調査によれば、腎生検数は年間約2万件と推定され、腎疾患診療における重要な診断ツールになっています。腎生検標本は他の多くの領域と異なり、光学顕微鏡、免疫組織(蛍光抗体法など)、および電子顕微鏡、の3つの方法で得られた所見を総合して診断するという特徴があります。したがって、電子顕微鏡の所見は腎臓病の診断になくてはならない方法であり、その技術や知識の普及は腎臓病診療の質の向上をさせているものであるといえます。また、大部分の腎臓病の病因や病態は明確になっているとは言い難く、まだまだ精力的な研究が必要です。電子顕微鏡的所見は、このような研究の進展に多大な役割を果たしてきました。現在ではそれらの所見が蓄積され、臨床病態と関連付けられて意味あるものとして系統的に整理されています。
我が国では腎臓専門医が病理標本を見る機会は大変多く、診断や治療に直接、間接に所見が反映されています。電子顕微鏡は光学顕微鏡に比べるとややとっつきにくいところがありそうです。その意味で、本書のような大変わかりやすい電子顕微鏡の入門書は、腎臓病理学を目指す学徒はもちろんのこと、腎臓専門医にとっても大変貴重なものであると考えます。また本書は単に入門書というだけでなく、太田善介先生と大沢源吾先生が精魂込めて作り上げられた作品であり、画像の質は大変すばらしいものがあります。
今回復刻の書として再度世に出ることは、素晴らしいことであり、ぜひ多くの方に利用していただきたい、と心から念ずる次第です。
初心者のための腎臓電顕図譜復刻版発刊に当たって
岡山大学 腎・免疫・内分泌代謝内科学
槇野 博史
この度初心者のための腎臓電顕図譜の復刻パワーポイント版が日本腎臓学会のホームページ上で公開されることとなり、喜びに堪えません。本書は太田善介会長のもと第34回日本腎臓学会総会記念として刊行されて20年を超えます。今回復刻されることは、腎臓の基本的構造と病理学的変化の基礎は変わらない事を意味します。また、未だに通用する本を作成された太田善介会長の慧眼に感服致します。私自身電子顕微鏡を用いて腎臓病学の研究をして参り、図譜に私が撮影した写真を何枚か採用して頂きました。編集委員の方々と一緒に議論した当時の事を思い出すと、感慨もひとしおです。
この本は題名にもありますようにこれから腎臓の勉強を始めようとする方々に最適の本です。私は毎年この電顕図譜を用いて医学生の臓器・系統別講義の腎臓の最初の数コマの講義をしております。腎臓の組織学・病理学の復習として、また腎臓病学の概論としても大変有用です。この図譜により腎臓の勉強を始められた方々の腎臓への興味と理解とがより深まり、腎臓病の患者さんの治療の一助となれば幸いです。この電顕図譜がこれからも末長く活用されることを切望致します。
最後になりますが、この復刻版にご尽力頂きました、学術委員長の堀江重郎先生、企画担当された柏原直樹先生、杉山斉先生をはじめ関係者の方々に厚く御礼申し上げます。
復刻パワーポイント版刊行のことば
岡山大学名誉教授 太田善介
この図譜は、原著の「刊行のことば」に記したように、1991年(平成3年)に私が会長として第34回日本腎臓学会総会を岡山で開催した時、参加された腎臓学会会員の皆様に配布した電子顕微鏡写真集です。『初心者のための腎臓電顕図譜』というタイトルが示すように、腎臓の基本的微細構造を選んで、これまでの岡大第三内科教室の研究成果や、欠ける部分は大澤源吾元川崎医科大学腎臓内科教授をはじめとした別記の編集委員の業績を使用させていただいて、編集したものです。
若い医師から便利で利用していると時々聞くことはありましたが、昨年の腎臓学会総会の受付に再発行された本図譜が大量に積んであり、無料で配布されるのを見て、驚くとともに光栄に感じました。
昨年の暮れに腎臓学会学術委員会より、本図譜を腎臓学会ホームページ上で公開したいので、編集代表者として復刻版の序文を執筆するようにという依頼状が届きました。広く医学会に利用されるならこの上もなく名誉な企画なので、図譜の編集委員の合意を得てここに公開の運びとなり、活用しやすくなったことを喜ばしく存じます。
編集後記
平成3年、岡山大学医学部第三内科教室(当時)の教授であられた太田善介先生が総会長をお務めになり、岡山市で第34回日本腎臓学会学術総会が開催されました。本図譜は総会記念刊行物として、太田先生が編纂され出版されたものです。槇野博史前理事長を筆頭とする門下の先生方、また川崎医科大学教授であられた大澤源吾先生の協力も得て編纂され、腎臓形態学に関する膨大な学知の集積ともみなしうるものであります。太田先生は医学者であると同時に、自然の精緻な造形に魅せられた芸術家でもありました。学問的価値の高さは言うまでなく、収載されたすべての顕微鏡写真の美しさにも目を見張るものがあります。完璧を希求する厳格な鑑識眼のもとで、数千枚の写真の中から選び抜かれた作品集とも言えましょう。ScienceとArtの融合を本書に見ることができます。
本図譜は世界に類を見ない価値を有するものとして、その復刻が強く求められていました。腎臓学会の事業として、復刻をお認めいただいた日本腎臓学会松尾清一理事長、槇野博史前理事長、学術委員長である堀江重郎教授、理事会の先生方に感謝の意を表したく存じます。編集にあたった柏原、杉山の両名はこれまで、長年にわたって太田先生、槇野先生の御指導を受けることができました。本図譜復刻作業を通してお二人からいただいた学恩にわずかにではありますが、報いる機会を与えていただきました。
東京医学社蒲原一夫氏、腎臓学会事務局福田喜美子さんの編纂作業における精力的なお仕事なしには、本図譜の復刻はかないませんでした。心から感謝申し上げます。
柏原直樹
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
慢性腎臓病対策 腎不全治療学
杉山 斉