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会員向け

「紅麹コレステヘルプに関連した腎障害に関する調査研究」アンケート調査(中間報告)

日本腎臓学会
会員各位

迅速にご協力いただいた先生方、誠にありがとうございました。

おかげさまで、3月31日19:00時点で47例のご記入をいただきました。
紅麹コレステヘルプ摂取後に生じた腎障害の臨床像につき、先生方の診療の一助となるように、
現時点での中間報告をさせていただきます。
なお、この中間報告は紅麹コレステヘルプ服用に伴う腎障害についてのアンケート調査の解析であり、1症例を除いて紅麹コレステヘルプを服用中の患者さんのデータが登録されています。「ナイシヘルプ+コレステロール」を服用されていた症例も1例ありましたので、ナイシヘルプ+コレステロール あるいは ナットウキナーゼさらさら粒GOLD 服用に伴う腎障害があるかどうかについては、今後の検討課題となります。

患者さんは30歳代から70歳代まで認められますが、40歳~69歳が約9割を占めます。
現時点ではやや女性に多い傾向があります(66%)。

服用開始は約4割の方が1年以上前(服用開始時期2023年3月以前)ですが
服用期間が短期間の方(開始時期2023年12月、2024年1月、2月)も発症しておられます。
初受診日は2023年11月以降で、1月以降の受診が約8割を占めます。

初診時の主訴は半数以上の症例で倦怠感や食思不振、尿の異常、腎機能障害でした。
腹部症状や体重減少を訴えるかたも少なからずおられるようです(約17%)。
発熱や嘔吐、頻尿、浮腫や体重増加などを呈する方は比較的少ないようです。

主な検査データ異常としてはFanconi症候群を疑う所見が目立っており
下記特徴的所見が認められました(中央値[四分位])。

・低カリウム血症(3.3 [2.9-3.7] mEq/L; 約65%が3.5 mEq/L未満)
・低リン血症(2.0 [1.7-3.3] mg/dL; 約60%が2.5 mg/dL未満)
・低尿酸血症(1.8 [1.4-3.2] mg/dL; 約60%が2.0 mg/dL未満)
・代謝性アシドーシス(HCO3- 16.0 [13.0-18.2] mmol/L; 約65%が18.0 mmol/L未満)
・尿糖陽性(約87%が3+以上)

また、
・eGFR低下(17.8 [14.2-31.0] mL/min/1.73m2)
・血清クレアチニン上昇(2.3 [1.5-3.5] mg/dL)
・尿蛋白増加(2.3 [1.5-2.9] g/gCr)
・尿β2MG(21618 [3826-35763] ng/mL)
・尿NAG(23.6 [14.5-33.1] IU/L)
となっており、Fanconi症候群としては、尿蛋白がやや多い印象があります。
尿β2MG、尿NAGは非常に高い症例から正常範囲の症例まで症例により差があるようです。

なお、血清CK (87 [68-152] U/L)の上昇はなく、横紋筋融解症による腎障害は否定的でした。

腎生検は2023年12月から2024年3月にかけ、34症例に実施されており
まだ、組織診断が最終報告に至っていない症例もありますが、
尿細管間質性腎炎、尿細管壊死、急性尿細管障害が主な病変です。
光顕上、糸球体に病変を認めたという報告は1例のみでした(メサンギウム増殖性糸球体腎炎)。
ただし、この症例は以前より血尿を呈しており、今回Fanconi症候群の徴候を示すとともに、腎生検にて尿細管炎を認めたことから、「潜在性にIgA腎症のある方が尿細管炎を併発した可能性が高い」と主治医からコメントをいただいています。

治療ですが、透析療法を必要としたのは2症例のみです。
ステロイド治療を行ったのが1/4、被疑剤の中止のみが3/4程度となります。
低カリウム血症に対するカリウム補充や代謝性アシドーシスに対する重曹投与など
電解質異常に対する補正をされている症例が多くみられます。

経過中の血清クレアチニンの最大値は2.5 [1.9-4.0] mg/dLですが
アンケート記入時の直近の
血清クレアチニン1.2 [1.1-1.4] mg/dL
eGFR 42.0 [33.0-48.5] mL/min/1.73m2
であり、
腎機能低下は、ステロイド治療なしでも被疑剤の中止だけである程度改善する傾向にあります。
ステロイド治療については、腎生検所見などを参考に選択する必要があると思われます。
なお、尿所見、電解質異常は約3/4の症例で改善していますが、
改善に乏しい症例もあり、注意が必要です。

透析治療を要した2症例のうち、1症例は透析から離脱しています。
なお、維持透析に移行した症例は2023年3月以前に紅麹コレステヘルプを服用中止しております。他院で腎生検を受け(詳細不明であるが、糸球体腎炎)、Fanconi症候群を疑う臨床徴候はなく、糸球体腎炎の経過に矛盾しないため、主治医からは「関連性は低い」とコメントいただいています。

企業による死亡例の発表がなされていますが、学会としてはまだ情報を持ち合わせておらず
本アンケートでは死亡された方はおられませんでした。

なお、健康被害と紅麹コレステヘルプとの因果関係については科学的な検証が必要と考えております。
原因物質については、候補物質に関する報道がなされていますが、今後厚労省が国衛研とともに網羅的探索かつ発生機構の解明を行うことになっています。

紅麹コレステヘルプに関連した健康被害として、この中間報告でお示しした以外の病態を否定するものではありませんが、被疑剤を服用された場合、被疑剤の服用を中止するとともに、腎機能検査や尿蛋白に加えて、尿糖や血清カリウム値、尿酸値、リン値、HCO3-値の測定は重要と思われます。
今回の報告は中間報告であり、暫定的なものであることをご理解の上、診療にお役立て下さい。

日本腎臓学会理事長 南学正臣
日本腎臓学会副理事長 猪阪善隆