専門医制度
2022(R4)年度 腎臓専門医更新のためのセルフトレーニングの解答と解説
腎臓専門医の皆様へ(2023年1月19日付)
昨年11/7付で掲載いたしました2022(R4)年度セルフトレーニング問題の正解と解説を掲載いたします。
ご多忙の中約450名の応募がありました。ご協力をいただき誠にありがとうございました。
採点結果は3月下旬頃(遅れる場合もございます)に「郵送」いたします。
海外から応募の先生はメールにてご連絡いたします。
ご不明な点がありましたら,担当の西村(nishimura@jsn.or.jp)までご連絡下さい。
※手数料2,000円はいかなる場合も返金出来かねますこともご了承下さい。
教育・専門医制度委員会
委員長:鈴木 祐介
委員:門川俊明、和田健彦、田中哲洋
出題者(五十音順):赤井 靖宏, 旭 浩一, 石本 卓嗣, 小川 哲史, 小原 まみ子, 上條 祐司, 木村 秀樹, 小松 康宏, 今田 恒夫, 齋藤 修, 志水 英明, 杉本 俊郎, 竹田 徹朗, 坪井 伸夫, 西 慎一, 西野 友哉, 藤原 亮, 古市 賢吾, 向山 政志
40歳代女性。下肢の脱力が数日間で悪化したため来院した。最近、1週間食事を摂取出来ず、嘔吐を繰り返していた。今まで、医療機関への受診歴はなく、定期的な内服もない。
脈拍 100/分、整。血圧 124/72mmHg。呼吸数 18/分。両側下肢の筋力 MMT 4/5 他に神経学的異常を認めない。
尿生化学所見:Cl 10mEq/L
血液生化学所見:クレアチニン 0.7mg/dL、Na 137mEq/L、K 2.5mEq/L、Cl 82mEq/L。動脈血液ガス分析:pH 7.59、PaO2 7.59Torr、PaCO2 47Torr、HCO3- 46mEq/L。
生理食塩液とKCLの補充にて、代謝性アルカローシスの改善が得られた。
改善に寄与したネフロンセグメントはどれか。1つ選べ。
解答:e
a | 糸球体 |
b | 近位尿細管 |
c | ヘンレ上行脚 |
d | 遠位曲尿細管 |
e | 皮質集合管 |
解説
代謝性アルカローシスの成因には、発症因子と維持因子が知られている。特に、臨床の現場で問題となる代謝性アルカローシスには、腎臓からのHCO3-の排泄を阻害する維持因子が必要であるといわれている。以前は、代謝性アルカローシスは、体液量減少によるGFRの低下によるHCO3-排泄低下や近位尿細管によるHCO3-再吸収亢進が主であるといわれていた。しかし、本例は、腎機能の悪化がなく、維持因子としては考えづらい。近年、CL欠乏による、皮質集合管β間在細胞のCL/ HCO3- exchanger pendrinの機能障害や、Kカリウム欠乏による皮質集合管α間在細胞K-proton exchangerの機能亢進が代謝性アルカローシスの維持因子の主たるものという意見がある。本例は、KとCLの投与で代謝性アルカローシスの改善が得られており、皮質集合管の役割が重要であると考えられる。
(2)
腎臓におけるSodium-Glucose Cotransporter-2(SGLT-2)について正しいのはどれか。1つ選べ。
解答:b
a | 尿中へ糖排泄を行う |
b | 糖尿病で発現が亢進する |
c | 遠位尿細管に発現・分布する |
d | 尿中へのナトリウム排泄を行う |
e | インスリンにより機能が制御される |
解説
SGLT-2阻害薬による血糖降下作用とは独立した腎保護効果が注目されている。腎臓におけるSGLT-2の機能とSGLT-2阻害薬の作用について理解しておく必要がある。
(a) × SGLT-2は尿中のナトリウムとグルコースの再吸収を共輸送体として担う蛋白質であり、尿中のナトリウムとグルコースを尿細管の細胞内に取り込む機能を担う。SGLT-2阻害薬は近位尿細管に作用し尿糖の再吸収を抑制することで、尿糖の排出を促進し血糖値を下げる。
(b) ◯ 糖尿病による尿糖の増加に伴いSGLT-2の発現は亢進する。SGLT2の再吸収能を超えた分のグルコースが尿糖として排泄される。
(c) × SGLT-2は近位尿細管に発現する。近位尿細管で再吸収されるグルコースのうち、90%はSGLT-2の働きによるもので、残りの10%はSGLT-1の働きによる。
(d) × SGLT-2は近位尿細管においてナトリウムの再吸収を担う。
(e) × SGLT-2の機能はインスリンの分泌に依存しない。したがって、SGLT-2阻害薬は低血糖のリスクが少ない。
(3)
成人におけるシスプラチン投与時の腎機能障害を軽減するための補液療法に関する以下の記載のうち、適切なものはどれか。1つ選べ。
解答:e
a | 補液時には利尿薬併用が強く推奨される |
b | 補液の主目的は嘔吐を防止することである。 |
c | 低ナトリウム血症の発症を防止するため、輸液制限が原則である。 |
d | より少量かつ短時間の補液法であるショートハイドレーション法を行ってはならない。 |
e | シスプラチン投与前後でそれぞれ4時間以上かけて1000~2000mLの補液を行う。 |
解説
「がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2016」の理解を確認する設問である。腎機能障害を軽減するためには、尿量を確保し遊離型シスプラチンのスムーズな排泄を促すことが重要である。そのために、本邦ではシスプラチン投与前後にそれぞれ4時間以上かけて1000〜2000 mLの補液を行い、さらに500〜1000mL以上の輸液で希釈したシスプラチンを2時間以上かけて投与する(シスプラチン投与前・投与中・投与後に計2.5〜5Lの輸液を行う)ことが一般的である(大量補液法)。本ガイドラインでは、「全身状態良好かつ短時間補液に耐えうる臓器機能を有している患者においてはショートハイドレーション法が弱く推奨される」としており、ショートハイドレーション法に反対するものではない。
(4)
妊娠時に生じる生理学的変化・電解質の変化について、正しいのはどれか。
解答:a
1 | 腎血漿流量増加 |
2 | 低ナトリウム血症 |
3 | 呼吸性アルカローシス |
4 | 収縮期血圧上昇 |
5 | 体内カルシウム貯留量減少 |
a (1,2,3) | b (1,2,5) | c (1,4,5) | d (2,3,4) | e (3,4,5) |
解説
2018年に妊娠高血圧症候群の定義・臨床分類が変更になったが、昨今、妊婦の診療について産婦人科医と内科医(腎臓専門医)の連携の重要性があらためて注目されている。妊娠時の生理学的変化・電解質酸塩基平衡の変化についての問題。
1 腎血漿流量は妊娠初期から増加し、妊娠第2三半期までに1.6~1.8倍になる。妊娠第3三半期以降は徐々に低下するが非妊娠時の1.5倍は維持される。
2 体液量増加、GFR増加、抗利尿ホルモンの非浸透圧性分泌(分泌閾値の低下reset-osmostat)等の影響により血清ナトリウム濃度は低下する。
3 プロゲステロン上昇、横隔膜の挙上により過換気となり、呼吸性アルカローシスを生じる。
4 全身血管抵抗は減少(妊娠7週には10%、妊娠第2三半期には30%減少)し、血圧は低下する。
5 血清カルシウム濃度は通常正常(あるいは血清アルブミン低下によってやや低下するがイオン化カルシウム濃度は低下しない)であるが、胎盤における活性型ビタミンD産生増加・消化管からのカルシウム吸収増加により体内のカルシウム貯留量は増加する。
(5)
コントロールが不良な高血圧の治療に関する記述で誤っているのはどれか。
解答:a
1 | 利尿薬を含むクラスの異なる3種類の降圧薬を用いても目標血圧に達しない場合、難治性高血圧と呼ぶ。 |
2 | ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は主に集合管主細胞からのH+分泌を阻害しアシドーシスをきたす。 |
3 | ミネラルコルチコイドの塩分貯留作用のひとつとして、集合管でのpendrinの活性化が関係する。 |
4 | SGLT2阻害薬は、夜間高血圧に対する有用性が示されている。 |
5 | アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬は、透析患者でも使用できる。 |
a (1,2) | b (1,5) | c (2,3) | d (3,4) | e (4,5) |
解説
治療抵抗性高血圧における降圧療法に関して、新規薬剤の意義について問う問題である。
1) 利尿薬を含むクラスの異なる3種類の降圧薬を用いても目標血圧に達しないものを治療抵抗性高血圧と呼ぶ。難治性高血圧は5剤以上でも目標血圧に達しない場合である。
2) ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は集合管間在細胞からのH+分泌(主としてH-ATPaseを介して)を阻害することにより、代謝性アシドーシスをきたす。
3)4)5) 記載の通りである。以上より、誤っているのは1、2である。
(6)
腎代替療法の選択について正しいものはどれか。1つ選べ。
解答:d
a | SDM(shared decision making)とは予め医師が患者に適した治療法を提示することである |
b | ACP(advanced care planning)はCKD G5期に行う |
c | CKM(conservative kidney management)は透析非導入の患者に対しては行わない |
d | 非導入患者については、家族との同意形成も行うことが望ましい |
e | 繰り返しSDMについて確認を行う必要はない |
解説
a. ☓ 腎代替療法の選択について、以前は医師主導で療法選択をするパターナリズムが主流であったが、現在はACP(advanced care planning)とSDM(shared decision making)が必須になっている。
b. ☓ ACPは無症状でもCKD G4期までに行い患者に十分な情報と時間を提供することが大切である。
c. ☓ 腎代替療法を選択せず非導入が選択された場合、腎臓専門医はCKM(conservative kidney management)を主体的に行っていくことが求められている。
d. 〇 患者自身が腎代替療法を拒否し非導入を選択した場合には、家族、もしくはそれに準じる者に対してもSDMを行うことが求められている。
e. ☓ 腎代替療法選択は、繰り返し選択に変更がないかを確認することが推奨されている。これには、非導入の意志決定をされた患者が撤回することも想定されている。
(7)
持続血液透析濾過に関して保険が適用されない疾患はどれか。
解答:c
1 | 薬物中毒 |
2 | 中毒性表皮壊死症 |
3 | 血栓性血小板減少性紫斑病 |
4 | 重症敗血症 |
5 | 重症急性膵炎 |
a (1,2) | b (1,5) | c (2,3) | d (3,4) | e (4,5) |
解説
持続血液透析濾過が保険適用となるのは薬物中毒の患者、重症敗血症の患者、重症急性膵炎の患者である。中毒性表皮壊死症や血栓性血小板減少性紫斑病に対して保険収載されているのは、血漿交換療法である。
(8)
固定用量がある抗がん薬の中で腎排泄型薬剤を使用する場合,糸球体濾過量で薬量調節が必要となる。望ましい糸球体濾過量の指標はどれか。
解答:e
1 | 血清Cr |
2 | 血清シスタチンC |
3 | 推算GFR |
4 | 体表面積補正なしの推算GFR |
5 | 実測Ccr |
a (1,2) | b (1,5) | c (2,3) | d (3,4) | e (4,5) |
解説
健常者において固定用量使用となっている抗がん薬で腎排泄型薬剤を使用する場合は,患者個人の実質的な糸球体濾過量を投与設計に用いることが望ましい。血清Cr、血清シスタチンC、eGFRは患者個人の糸球体濾過量を正確には反映していない。実測Ccrと体表面積未補正GFRが個人の糸球体濾過量をより正確に反映していると考えられる。しかし,実測Ccrの検査では,1日蓄尿が確実に行われていることを確認することが大切である。本問題は,eGFRは1.73m2で標準化しているとの認識があるか否か、また,24時間の実測Ccrの有益性の認識を問う。ガイドラインに示されたようにCockcroft‒Gault式による推算Ccrでも良いが、測定法が異なる歴史があり、現在使用されている酵素法でのCr値に0.2を加える操作が必要であるため作問に入れ難いと感じ、選択肢としなかった。
参照「がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2016」日本腎臓学会,日本癌治療学会,日本臨床腫瘍学会,日本腎臓病薬物療法学
(9)
腎生検における出血・凝固の術前検査の最小限セットとして推奨される組み合わせはどれか。1つ選べ。
解答:d
a | PT, APTT |
b | 血小板数,PT, APTT |
c | 血小板数,PT, APTT,出血時間 |
d | 血小板数,PT,APTT,フィブリノゲン,FDP(または D-dimer) |
e | 血小板数,PT,APTT,フィブリノゲン,FDP(または D-dimer),PIC(プラスミン・α2 プラスミンインヒビター複合体) |
解説
出血傾向を確認するため血小板数は重要であり,高度の血小板減少がある場合は,血小板輸血後に腎生検を行う。出血時間は血小板機能異常の可能性をみる簡便な方法として,血小板凝集・粘着能の代替検査としての長い歴史があるが信頼性は低い。現在は血小板機能は血小板数,APTT(von Willebrand 病を考慮して)だけで行い,出血の既往や家族歴があれば血小板凝集能,粘着能の検査が施行される。一方で,術前検査が血小板数,PT,APTTのみでは危険とも考えられており,慢性に経過する線溶亢進型 DIC(大動脈瘤など)を完全に逃すとされている。血小板数は正常下限,PTはほぼ正常,APTT正常(むしろ短縮もある)程度でも慢性に経過する線溶亢進型 DIC は多々ある。このような患者に手術をして大出血する可能性があるとされている。術前検査の最小限セットは,血小板数,PT,APTT,フィブリノゲン,FDP(または D-dimer)と考えられている。アミロイドーシスでも過剰な線溶活性化による止血困難,出血傾向の症例があるが,この場合は軽度のFDP上昇で疑い,PICを測定すると著増していることで診断可能である。
参照「腎生検ガイドブック2020」(東京医学社)Chapter 3 腎生検前のチェック項目
(10)
巣状分節性糸球体硬化症の亜型分類において最も予後不良なのはどれか。1つ選べ。
解答:e
a | tip variant |
b | NOS variant |
c | cellular variant |
d | perihilar variant |
e | collapsing variant |
解説
巣状分節性糸球体硬化症には、病理形態的に5つの亜型分類があり、予後の違いがあることが知られている。3年後の末期腎不全進行率は、collapsing variantが47%と最も予後不良である。一方、tip variantが7%と最も予後良好である。巣状分節性糸球体硬化症の大多数を占めるNOSは20%程度であることが示されている。
(11)
糖尿病性腎臓病の早期診断のためのバイオマーカーとして有用性の低いのはどれか。1つ選べ。
解答:a
a | 尿中D-セリン |
b | 尿中メガリン |
c | 尿中 Ⅳ型コラーゲン |
d | 血中 TNF-α(tumor necrosis factor-alpha)受容体 |
e | 尿中 L-FABP(liver-type fatty acid-binding protein) |
解説
尿中 Ⅳ型コラーゲンや尿中 L-FABP(liver-type fatty acid-binding protein)は 保険適応にもなっている。血中 TNF-α(tumor necrosis factor-alpha)受容体も多くの報告がある有用なマーカー。尿中メガリンは、本邦で詳細に検討が進められており、診断マーカーとしての有用性が報告されている。Dアミノ酸であるD-セリンは、急性腎障害のマーカーとしては報告があるが、糖尿病性腎症に関しては報告がない。
(12)
IgG4関連腎臓病の診断に関して正しいのはどれか。
解答:d
1 | 高IgM血症を認めることが多い。 |
2 | 眼病変としてぶどう膜炎がみられる。 |
3 | 腎病理組織の約50%に花筵状線維化がみられる。 |
4 | 診断確定には高IgG4血症(135mg/dL以上)が必須である。 |
5 | 診断確定にはIgG4/IgG 陽性形質細胞比50%以上が必須である。 |
a (1,2) | b (1,5) | c (2,3) | d (3,4) | e (4,5) |
解説
IgG4関連腎臓病の診断に関する知識を問う問題である。2020年に改訂版(IgG4関連腎臓病診断基準 2020)が日本腎臓学会より出版された。本疾患は診断に至らないケースや疑診となるケースも多いが、改定版の診断基準では感度・特異度ともに90%程度と向上しており、確認しておく必要がある。
(1)診断基準の項目の一つに、「血液検査にて高IgG血症、低補体血症、高IgE血症のいずれかを認める」とある。
(2)IgG4関連眼疾患として、涙腺腫大・三叉神経腫大・外眼筋腫大のほか、さまざまな眼組織に腫瘤、腫大、肥厚性病変がみられるが、ぶどう膜炎ではない。
(3)正しい。
(4)正しい。
(5)IgG4/IgG 陽性形質細胞比40%以上である。
(13)
細胞には飢餓時のエネルギーやアミノ酸などの供給だけでなく、不要な蛋白や障害を受けた細胞内小器官を消化することにより、恒常性維持に関与する機構が存在する。腎の虚血再灌流障害や薬剤性腎障害において、障害されたミトコンドリアなどの細胞内小器官や変性蛋白を消化することにより、尿細管細胞の保護にもこの機構が関与していることが近年判明し、創薬のターゲットとして注目されている。
この機構は次のうちどれか。1つ選べ。
解答:d
a | ピノサイトーシス |
b | ユビキチン・プロテアゾーム系 |
c | エンドサイトーシス |
d | オートファジー |
e | アポトーシス |
解説
2016年、大隅良典(当時東京工業大学特任教授他)は、オートファジーの仕組みを解明した功績からノーベル生理学・医学賞を受賞した。オートファジーは飢餓などにより誘導され,非特異的に蛋白などを消化すると考えられてきたが、肥満や脂質異常、高尿酸血症など、過栄養の状態においても、消化すべき変性蛋白や異常ミトコンドリアなどが尿細管細胞で増加するために、定常状態のオートファジー活性は上昇している。しかし、このような状態が持続すると、オートファジー・リソソーム系の停滞が起こり、ストレス時におけるオートファジー活性亢進が障害され、オートファジーによる腎保護作用が働かず、腎障害が進展する。(日内会誌 106:1206ー1211,2017)
(14)
CKDステージG3b以降の患者において,人工透析導入および死亡リスクの抑制のための尿酸の治療開始後の目標値はどれか。1つ選べ。
解答:b
a | 5.0 mg/dL以下 |
b | 6.0 mg/dL以下 |
c | 7.0 mg/dL以下 |
d | 8.0 mg/dL以下 |
e | 9.0 mg/dL以下 |
解説
CKD患者の尿酸コントロール目標値について問う問題である。CKDステージG3b以降の患者の腎機能の悪化抑制、死亡リスク抑制の観点から、無症候であっても血清尿酸値が7.0mg/dLを超えたら生活指導、8.0mg/dL以上から薬物治療を開始し、治療開始後は6.0mg/dL以下を維持することが望ましい。参考文献:CKDステージG3b~5診療ガイドライン2015
(15)
CKD進展との関連に乏しい因子はどれか。1つ選べ。
解答:c
a | 睡眠の質 |
b | AKIの合併 |
c | 血清ナトリウム値 |
d | 血清NT-proBNP値 |
e | 動物性たんぱく質摂取量 |
解説
CKD進展に関与する因子について問うている。
a 中断のない十分な睡眠はCKD進展に関連せず、睡眠の質の低下は進展リスクとなる。
b CKDにAKIを合併するとCKDはより進展しやすい。
c 血清ナトリウム値はCKD進展との関連が乏しい。
d 心不全マーカである血清NT-proBNP値はCKD進展に関連するとされる。
e 植物性タンパク質は腎保護的に働くとされる一方、動物性たんぱく質の摂取はCKD進展に関連する。
参考文献:Hannan M, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2021;16:648-659.
(16)
多発性骨髄腫診断における骨髄腫診断事象(myeloma defining events:MDE)で正しいのはどれか。
解答:b
1 | 腎障害 |
2 | 骨髄のクローナルな形質細胞比率≧60% |
3 | 代謝性アシドーシス |
4 | 低γグロブリン血症 |
5 | 血清遊離軽鎖(FLC)比≧100 |
a (1,2,3) | b (1,2,5) | c (1,4,5) | d (2,3,4) | e (3,4,5) |
解説
多発性骨髄腫診断の診断基準は、骨髄におけるクローナルな形質細胞比率≧10%または生検で証明された髄外形質細胞腫が存在し、加えて骨髄腫診断事象(myeloma defining events:MDE)を1項目以上満たすもの(Lancet Oncol 15:e538-548, 2014)である。
MDEは従来の臓器障害であるCRAB:
・高カルシウム血症:基準値より0.25mmol/l(1mg/dl)を超える上昇または2.75mmol/l(11mg/l)を超える高カルシウム血症
・腎不全:クレアチニンクリアランス<40 ml/minまたは血清クレアチニン>177 μmol(>2 mg/dl)
・貧血:Hbが基準値より>2 g/dl低下または10 g/dl未満
・骨病変:1つ以上の溶骨病変(X線,CT,PET-CT)
以外に、骨髄の形質細胞が≧60%、血清FLC比≧100、MRIで巣状病変>1 が加えられた。改訂が行われた背景としては,国際骨髄腫ワーキンググループ(IMWG)は2011年に、診断2年後に約80%のくすぶり型多発性骨髄腫(SMM)患者が症候性骨髄腫に進展するような信頼性のあるバイオマーカーが存在する場合は、症候性骨髄腫と同様に治療すべきであると報告したことに始まる(日本内科学会雑誌 105巻7号)。FLC比は採血検査で定量的に測定可能であり、多発性骨髄腫に関連する腎障害を診断する際に役立つ検査である。
(17)
微小変化型ネフローゼ症候群について関与している可能性が高いと報告されたのはどれか。1つ選べ。
解答:a
a | 抗Nephrin抗体 |
b | 抗Synaptopodin抗体 |
c | 抗NELL1抗体 |
d | 抗Semaphorin3B抗体 |
e | 抗Podocin抗体 |
解説
2021年12月、微小変化型ネフローゼ症候群の患者コホートの血清サンプルにおいて、抗Nephrin抗体が同定されたことが報告された。最新の重要な知見について問う問題。
参考文献:Watts AJB, et al. J Am Soc Nephrol. 2022;33:238-252.
(18)
膜性腎症の臨床所見および組織所見として正しいのはどれか。
解答:b
1 | 緩徐に発症する |
2 | 血清補体価が低下する |
3 | Selectivity Indexは高選択性を呈する |
4 | 原発性ではTHSD7AT関連がPLA2R関連より頻度が高い |
5 | 原発性ではIgGサブクラスのIgG4が最も優位に沈着する |
a (1,2) | b (1,5) | c (2,3) | d (3,4) | e (4,5) |
解説
膜性腎症(MN)は緩徐に発症する。MCNSは急性発症が多い。血清補体価、補体C3、C4などは低下しない。Selectivity indexは低選択性を示す。高選択性を示すのはMCNSである。原発性MNは、抗PRA2R抗体陽性である頻度が高い。日本人では抗PRA2R抗体陽性頻度が50%程度、抗THSD7A抗体陽性頻度が5%程度である。IgGサブクラスの免染では、原発性の場合IgG4が最も優位に染まる。
(19)
ネフロン癆について正しいものはどれか。
解答:d
1 | 腎皮質を中心とする嚢胞性疾患である |
2 | 常染色体顕性(優性)遺伝を示すことが多い |
3 | 低身長などの成長障害で発見されることがある |
4 | 一次繊毛の構造、機能異常により発症する |
5 | 腎機能は保たれていることが多い |
a (1,2) | b (1,5) | c (2,3) | d (3,4) | e (4,5) |
解説
ネフロン癆は腎髄質を中心とする嚢胞性疾患であり、非運動性の繊毛(一次繊毛)の構造や機能異常により発症する。常染色体潜性(劣性)遺伝を示すことが多くNPHP遺伝子の異常が知られているが孤発例もある。末期腎不全に至る時期により乳児ネフロン癆、若年性ネフロン癆、思春期ネフロン癆に分類される。多飲・多尿などが4~6歳頃より出現し、成長発育障害を認めることがあるため、低身長などで受診する小児では本症も念頭におく必要がある。根本的治療はなく、腎機能低下を抑制するための保存的治療が行われる。基本的に30歳までには腎不全に至り腎代替療法を要する。
(20)
20歳女性、短期大学を卒業後、今春より就職予定。
在胎27週3日で出生(出生時身長32.0cm、出生時体重690g)、新生児集中治療室で加療され、特に問題なく退院した。その後の精神運動発達は正常であったが、低身長のため小児科で成長ホルモン治療が行われた。
18歳での身長は143.0cmであり、小児科への通院は終了となった。最終受診時の検査結果を示す。尿所見:タンパク1+、潜血(-)、タンパク定量 0.15g/gCr。生化学所見:尿素窒素 11mg/dl、クレアチニン 0.71mg/dl、Na 141mEq/L、K 4.3mEq/L、Cl 103mEq/L、シスタチンC 0.81mg/dL(正常値 0.47~0.82)。腎臓超音波検査:輝度、構造に異常なし。
この症例に関して適切でないのはどれか。1つ選べ。
解答:d
a | ネフロン数が少ない |
b | 高血圧やメタボリックシンドロームに注意する |
c | 腎臓専門医への円滑な移行が望ましい |
d | 遺伝性疾患の可能性が高い |
e | 糸球体の過剰濾過(hyperfiltration)が疑われる |
解説
本例は超低出生体重児で成人に至った女性であるが、近年、胎生期、周産期、乳幼児期の環境が生活習慣病、慢性腎臓病(CKD)をはじめとする疾患の発症に影響を与えるとの概念が唱えられている(Developmental Origins of Health and Disease: DOHaD学説)。子宮内発育遅延や早産による低出生体重はその一つのマーカーとされ、低出生体重児では将来の肥満、糖尿病、脂質代謝異常や心血管イベントのリスクが増加することが指摘されている。胎児期のネフロン形成は妊娠9~36週に生じ早産では出生後も継続されるが、生後40日までに終了することから最終的なネフロン数は出生体重と正の相関を示すことから、低出生体重児ではネフロン数の減少により糸球体の過剰濾過が生じ糸球体硬化をきたしてCKDが発症するものと考えられている。このため成人期に明らかな症状が出現する前の小児期から継続的なフォローアップを開始し、特にCKDリスクのある症例では小児科から腎臓専門医への円滑な移行医療が望まれる。