専門医制度
2024(R6)年度 腎臓専門医更新のためのセルフトレーニングの解答と解説
腎臓専門医の皆様へ(2025年2月4日付)
昨年11/8付で掲載いたしました2024(R6)年度セルフトレーニング問題の解答と解説を掲載いたします。
採点結果は3月下旬頃(遅れる場合もございます)に「郵送」いたします。
ご不明な点がありましたら,担当の西村(nishimura@jsn.or.jp)までご連絡下さい。
※手数料2,000円はいかなる場合も返金出来かねますこともご了承下さい。
教育・専門医制度委員会
委員長:和田健彦
委員:門川俊明、片桐大輔、今井直彦、北村浩一
出題者(五十音順): 飯田禎人、川島圭介、辻憲二、奈良健平、藤澤雄平、武藤玲子
非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の疾患発現に関わるとされる補体遺伝子の異常の中で液相中の補体活性に関わると報告されている病的バリアントはどれか。2つ選べ。
解答:bとd
a | Complement Factor D (CFD) |
b | Complement Factor H (CFH) |
c | Complement Factor B (CFB) |
d | Complement Factor I (CFI) |
e | Plasminogen(PLG) |
解説
aHUSの疾患発現に関わるとされる補体遺伝子の異常は、補体制御因子の機能喪失バリアントと、活性化因子の機能獲得バリアントに分けられ、複数箇所が関わっていると報告されている。
液相中の病的バリアントはCFIとCFHであり、細胞膜上の病的バリアントはMCPとCFHが代表的である。PLGはより下流の凝固関連因子異常である。
参考文献:血栓止血誌2020;31(1):45-54
非典型溶血性尿毒素症候群(aHUS)診療ガイド2023
(2)
C3腎症に関して正しいのはどれか。2つ選べ。
解答:aとe
a | C3腎炎とdense deposit disease (DDD)に分けられる。 |
b | 主に補体の古典的経路の異常が原因となる。 |
c | 病理像は膜性腎症が多い。 |
d | 中年以降の発症が多い。 |
e | 補体の低下を伴うことが多い。 |
解説
C3腎症は、腎生検で糸球体の免疫蛍光染色で C3 のみ陽性(またはC3優位)となる一次性膜性増殖性糸球体腎炎の一病型であり、電子顕微鏡所見に基づいてC3腎炎とdense deposit disease(DDD)に分類される。病態生理は完全には解明されていないものの、補体副経路の調節不全の病態と考えられており、血清C3値の低下がほとんどの患者で認められる。
(3)
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)に対する分子抗体薬であるカプラシズマブに関して正しい記述はどれか。2つ選べ。
解答:dとe
a | 標的となるのはvon Willebrand factor (vWF)のA2ドメインである。 |
b | 本薬剤を使用することで、vWF同士の結合を即時に阻害する。 |
c | 血漿交換を併用しない単独療法も本邦で保険適用がある。 |
d | 血漿交換前から使用する。 |
e | 急性期の血栓塞栓症の減少が報告されている。 |
解説
カプラシズマブは本邦でも2022年12月に免疫原性TTP(immune mediated TTP: iTTP)に対して保険承認された今後使用が拡大する薬剤である。
各設問に関して、正しくは下記となる。
a. × 標的となるのはvon Willebrand factor (vWF)のA1ドメインである。
b. × vWFと血小板の相互作用を阻害し微小血栓形成を阻害する。
c. × 現時点で、本邦では血漿交換を併用しない単独療法への保険適用はない。
d. ○ 血漿交換前から使用することがある。(現在は血漿交換直前からの投与が推奨されている。)
e. ○ 急性期の血栓塞栓症の減少が報告されている。(vWFを介した血小板の接着及び凝集を抑制することで、血栓症の進行を抑制するとされる。)
参考文献:血栓止血誌;33(5):583-585、血栓止血誌 2024; 35(4): 440-447
(4)
2024年10月現在、本邦において慢性腎臓病もしくは2型糖尿病に合併する慢性腎臓病を保険適用疾患として使用可能なSGLT2阻害薬はどれか。
解答:b
1 | エンパグリフロジン |
2 | ダパグリフロジン |
3 | イプラグリフロジン |
4 | ルセオグリフロジン |
5 | カナグリフロジン |
a (1,2,3) | b (1,2,5) | c (1,4,5) | d (2,3,4) | e (3,4,5) |
解説
2024年10月現在、本邦において慢性腎臓病を保険適用疾患として使用可能なSGLT2阻害薬はエンパグリフロジン、ダパグリフロジンである。2型糖尿病を合併する慢性腎臓病を保険適用疾患として使用可能な薬剤はカナグリフロジンである。SGLT2阻害薬のすべての薬剤が慢性腎臓病に対して保険適用疾患とされているわけではないことに注意する必要がある。
(5)
ファブリー病について正しいものはどれか。1つ選べ。
解答:d
a | αGAL活性は低い |
b | 常染色体潜性遺伝である |
c | 幼少期には症状を認めない |
d | 治療法に薬理学的シャペロン療法がある |
e | 血液中にマルベリー小体を認める |
解説
ファブリー病についての検査や治療、遺伝形式についての知識を問う問題。
a: × 女性患者でαGAL活性が正常のことがある
b: × X連鎖潜性遺伝である
c: × 幼少期から手足の疼痛や無汗症を認めることがある
d: ○ 薬理学的シャペロン療法は2018年3月に承認された経口治療法である
e: × マルベリー小体は尿検査で認める
(6)
本問題は基準値の単位に誤植がありましたが、回答に影響を与えないため、削除とはしていません。
19歳の男性。繰り返す尿路結石の精査のために来院した。5週間前に右側腹部痛と、血尿で近医を受診した。腎臓超音波検査で両側腎臓の石灰化と右尿管に5mmの結石を認めた。その際に腎機能障害を認めたため紹介となった。家族歴には特記事項なし。
現症:体温、呼吸および血圧に異常はない。表在リンパ節は触知しない。心音と呼吸音に異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝と脾を触知しない。
検査所見:尿所見:尿蛋白1+、潜血(-)、尿蛋白/クレアチニン比 1.4 g/gCr、尿アルブミン/クレアチニン比 250mg/gCr。
血液学所見:赤血球350 万、Hb 13.1 g/dl、Ht 32.3%、血小板 36.5万、WBC 7,300。
血液生化学所見:総蛋白 6.5 g/dl、アルブミン 3.8 g/dL、AST 19 IU/L、ALT 24 IU/L、ALP 190 U/L、尿酸 6.5 mg/dL、クレアチニン 1.4 mg/dL、推算GFR 44ml/min/1.73m2、Na 141 mEq/L、K 3.4 mEq/L、Cl 111 mEq/L、Ca 9.5mg/dL、P 1.8 mg/dL。
静脈血液ガス分析:pH 7.38、HCO3- 21mEq/L
内分泌所見:iPTH 18pg/mL(基準値10-65 pg/mL)、25-OHVitD 55ng/mL(基準値30-60 ng/mL)、 1,25-(OH)2 VitD 30 pg/mL((基準値15-65 pg/mL)
診断はどれか。1つ選べ。
解答:c
a | サルコイドーシス |
b | 遠位尿細管性アシドーシス |
c | Dent病 |
d | 副甲状腺機能亢進症 |
e | ビタミンD過剰摂取 |
解説
Dent 病はクロライドチャンネル5(chloride channel-5:ClC-5)の異常により出生時から近位尿細管機能障害を呈し,加齢とともに遠位尿細管障害が加わり,成人になってから糸球体硬化による腎機能低下をきたすX染色体潜性の遺伝性疾患である。本邦では学校検尿により尿蛋白を指摘され診断されることが多いが、まれながら成人前後での診断例も認められる。
特徴としては、①男性、②蛋白尿(成人では1.5g/日以上のことが多く、蛋白尿は低分子蛋白尿(β2MGやα1MG)主体である。)、③腎機能障害、④高Ca尿症、⑤画像検査による腎髄質を中心とする石灰化や腎結石、尿路結石、があげられる。
a. 典型的な肉芽種病変を認めず、低分子尿蛋白や低P血症の説明ができない。
b. Fanconi症候群様の所見があるので間違い。
d. iPTHが低値であり異なる。
e. 25(OH)VitDが正常かつ、低P血症であることから異なる。
参考文献:日腎会誌 2011;53 (2):146-149.
(7)
55歳の女性。発熱と腹痛を主訴に来院した。血圧135/75 mmHg、心拍数65 /分。左下腹部に圧痛あり。腹部膨満あり。CTにて両側に多発する腎嚢胞を認め圧痛部位の3cm大の囊胞に壁肥厚を認めた。尿のグラム染色ではグラム陽性球菌が見られた。
この疾患について正しいのはどれか。2つ選べ。
解答:bとc
a | 水溶性抗菌薬は無効である。 |
b | 5cm以上の囊胞は難治性のことが多い。 |
c | 保険適用外であるが、感染囊胞の同定にはPETスキャンが有用である。 |
d | 治療開始から3日間解熱しない場合ドレナージの適応である。 |
e | 軽症例ではニューキノロン系抗菌薬が第一選択である。 |
解説
「エビデンスに基づく多発性嚢胞腎診療ガイドライン2020」から.囊胞感染時の治療方針について問う出題.
水溶性抗菌薬での治療成功例の報告も多数あり。キノロン耐性菌の問題もあり軽症例ではエンピリカルなニューキノロン系抗菌薬の投与は推奨されていない。囊胞サイズが5cm以上となる場合には難治性となることが多く早期のドレナージを検討する必要がある。また、抗菌薬投与も1~2週間発熱が続く症例に対してドレナージ術などの外科的介入を検討する必要がある。CT、MRI、エコー検査での感染囊胞の同定は6割程度にとどまっており、保険適用外であるが、PETスキャンの有用性が報告されている。
(8)
28歳の男性。急性発症の意識障害、呼吸困難、嘔吐で救急外来を受診した。
既往歴:なし、内服薬:なし
身体所見:意識レベル(GCS)E3V3M4、体温36.2度、血圧110/72mmHg、心拍数110回/分、呼吸回数28回/分。神経学的診察では四肢の筋力低下と深部腱反射の低下を認めた。
検査所見:血液生化学所見:BUN 24 mg/dL、Cr 1.4 mg/dL、Na 133 mEq/L、K 2.1 mEq/L、Cl 111 mEq/L、随時血糖値 128 mg/dL、アルブミン 4.0 g/dL、血漿浸透圧 280 mOsm/kg/H2O。
動脈血液ガス分析:pH 7.15、PaCO2 17 mmHg、HCO3- 7 mEq/L、乳酸 0.8 mmol/L
考えられるのはどれか。1つ選べ。
解答:e
a | ケトアシドーシス |
b | エチレングリコール中毒 |
c | サリチル酸中毒 |
d | 乳酸アシドーシス |
e | トルエン中毒 |
解説
本症例の血液ガス分析をTraditional approach(ボストン法)で行うと、
1 アシデミア、2 代謝性アシドーシス、3 AG=133-111-7=15 High AG、4 ΔAG=3、ΔHCO3-=17よりΔAG/ΔHCO3-=0.18であり、 酸の産生量に対して、HCO3-の消費量が多いため、非AG代謝性アシドーシスの合併、5 呼吸性代償はWintersの式より7×1.5+8±2=16.5-20.5となり呼吸代償は適切である。6浸透圧ギャップ:計算-実測=281-280=1であり浸透圧ギャップの開大なしとなる。
まとめると急性発症の意識障害、低K血症、血液ガス分析異常(AG開大型、非開大型代謝性アシドース)、浸透圧ギャップ正常、血糖値正常、乳酸値正常より、トルエン中毒が最も考えられる。
本症例のようにトルエンに曝露した直後にその代謝産物である馬尿酸が細胞外の重炭酸塩を滴定することでAG上昇型の代謝性アシドーシスを起こすとされる。時間経過と共に馬尿酸が尿中に排泄されることで、遠位尿細管性障害を起こす。
参考文献:Respir Care. 2009 Aug;54(8):1115-7.
(9)(10)は連問
56歳の女性。3日前から持続する悪心、嘔吐のため救急外来を受診した。既往歴:アルコール使用障害、うつ病。内服薬:なし。
身体所見:体温36.2度、血圧110/72mmHg、脈拍数110回/分、呼吸数18回/分、BMI22。胸部、腹部に異常なし。神経学的診察に異常なし。
検査所見:尿所見:尿Na 20 mEq/L、尿浸透圧 240 mOsm/kg/H2O、尿沈渣異常なし
血液生化学所見:BUN 10mg/dL、Cr 1.0mg/dL、Na 123 mEq/L、K 3.2 mEq/L、Cl 91 mEq/L、血糖 120 mg/dL、血清浸透圧 260mOsm/kg/H2O
入院後生理食塩液1.5Lを投与し8時間後の採血・尿検査で、尿量800 mL/8時間, 尿Na 33 mEq/L, 尿浸透圧100 mOsm/kg/H2Oとなり、血清Na131 mEq/Lに改善を認めた.
今後懸念される神経合併症の発症のリスク因子のうち、本患者に該当するのはどれか。2つ選べ。
解答:dとe
a | 女性 |
b | うつ病 |
c | 来院時の血清Na値(123mEq/L) |
d | Na値の補正速度 |
e | 来院時の血清K値 |
解説
今回の症例は、血清浸透圧低下と不適切な尿浸透圧の上昇が認められる低Na血症であり、尿Na値も併せて嘔吐の影響が最も疑われる。基本的な管理は、まず可能であれば嘔吐の改善、血行動態の安定、細胞外液の補充である。
急激なNa補正は橋中心髄鞘崩壊をもたらすため、補正中は頻回の採血(2-4時間毎)が必要である。そのため治療開始後24時間以内では補正の範囲は4-6mEq/L以内、もしくは必ず8mEq/L以下となるように推奨されている。
本症例は補正での採血間隔を誤り細胞外液の投与を漫然と継続した結果、短時間でNa値の上昇(8時間で8mEq/Lの上昇)を認めた。低Na血症の最も危惧される合併症は浸透圧性脱髄症候群(ODS)である。ODSの発症リスク因子として本症例で該当するものは、低Na血症の補正速度、アルコール使用障害、低K血症である。性別は男性に多く、うつ病との直接的な関与は報告されていない。
(10)
今後の治療計画として正しいのはどれか。2つ選べ。
解答:cとd
a | 現在の治療を継続する |
b | 飲水制限 |
c | 5%ブドウ糖液を投与する |
d | デスモプレシンを投与する |
e | 3%食塩液をボーラス投与する |
解説
来院時点では嘔吐刺激により一過性にADH分泌が認められていたが、Na値の改善とともに嘔吐は消失し本来認められていた心因性多飲の特徴である、尿浸透圧低値となり、血清Na値はさらに上昇する可能性がある。
原因によらず過剰補正の場合は逆補正をすることが推奨されており、5%ブドウ糖液に加えて状況に応じてデスモプレシンを併用する。デスモプレシンは保険適用がない事に注意。
生理食塩液投与はさらに急激なNa値の上昇を呈する可能性がある。心因性多飲の治療は本来であれば飲水制限であるが、過剰補正の懸念がある状況では飲水制限もさらなる血清Na上昇を来す可能性が高く望ましくない。
参考文献:Eur J Endocrinol. 2014 Feb 25;170(3):G1-47.
(11)(12)は連問
25歳の女性。手指のしびれのため来院した。2年前に2回、筋肉痛が出現し自然に改善したエピソードがある。1週間前から再度筋肉痛が出現した。外来での血液検査でK 2.0 mEq/L、Mg 0.9 mg/dlを認め、入院となった。
家族歴:妹が低K血症を指摘されたことがある。
現症:身長164 cm、体重52 kg、体温36.2 ℃、脈拍88 /分・整。血圧112/68 mmHg。呼吸数14 /回。神経診察では、両手指のMMT 4/5。
検査所見:尿所見:蛋白(-)、潜血(-)、Cr 20.64 mg/dl、Na 68 mEq/L、K 35.1 mEq/L、Ca 1.2 mg/dL, Mg 3.2 mg/dL。
血液学所見:Hb 13.1 g/dl、WBC 6,200、血小板 25万。血液生化学所見:総蛋白 6.5 g/dL、尿素窒素 24 mg/dL、クレアチニン 0.8 mg/dL、Na 141 mEq/L、K 3.2 mEq/L、Cl 105 mEq/L、Mg 1.1 mg/dL
静脈血ガス分析所見:pH 7.42、HCO3- 27.4 mEq/L。
内分泌検査所見:レニン活性 21.0 ng/ml/h, アルドステロン 106.1 pg/ml
障害されていると推定されるネフロンセグメントはどこか。1つ選べ。
解答:d
a | 糸球体 |
b | 近位尿細管 |
c | ヘンレ上行脚 |
d | 遠位曲尿細管 |
e | 皮質集合管 |
解説
診断として想定されるのはGitelman症候群である。遠位曲尿細管のイオンチャネルである、Na+ - Cl-輸送体(NCCT)に異常が認められる。症状として慢性の低K血症や低Mg血症による手指の痺れが多い。検査では、上記の血液所見に加えて、低カルシウム尿症、低マグネシウム血症、高レニン・高アルドステロン症が特徴である。
(12)
本疾患で想定される原因遺伝子を1つ選べ。
解答:d
a | HNF4A |
b | NPHP1 |
c | PKD1 |
d | SLC12A3 |
e | UMOD |
解説
近年では遺伝子検査の拡大ともに、Gitelman症候群を引き起こす原因遺伝子も確認することが可能になり、確定診断の精度がより高まった。
他の選択肢と原因疾患は下記になる。
a × HNF4AはMODY1型の原因遺伝子
b × NPHP1は若年性ネフロン癆の原因遺伝子
c × PKD1はADPKDの原因遺伝子
d ○ SLC12A3はGitelman症候群の原因遺伝子
e × UMODは常染色体優性尿細管間質性腎疾患の原因遺伝子
参考文献:日腎会誌 2011;5(3 2):169-172
(13)
高齢者における降圧目標設定や、降圧薬選択のために把握すべき病態とスクリーニング法のうち、誤っているのはどれか。1つ選べ。
解答:d
a | 両側頸動脈75%以上の狭窄 - 頸動脈雑音の聴診 |
b | 食後血圧低下 - 食後ふらつきの問診 |
c | 高度徐脈や高度の伝導障害 - 安静時心電図 |
d | 有意な冠動脈狭窄 - 安静時心電図 |
e | フレイル - 体重の推移、問診 |
解説
有意な冠動脈狭窄のスクリーニングでは問診や負荷心電図を行う。ただし高齢者では身体機能障害のために負荷心電図がとれない場合もある。薬物負荷心筋シンチや、冠動脈CTなどを症例に合わせて選択する。
参考文献:日本高血圧学会.高血圧治療ガイドライン2019
(14)
56歳の男性。亜急性経過で進行する意識障害を認めたため救急車で搬送された。4日前から食事摂取が雑になり、箸を落とすようになった。来院当日から受け答えがおかしかった。既往歴:特になし。家族歴:特になし。生活歴:機会飲酒。
現症:意識レベル(GCS)E4V3M6、身長 165 cm、体重 66 kg、体温 37.0 ℃。脈拍78 /分、整。血圧 128/90 mmHg。呼吸数 20 /分。身体診察:眼瞼結膜蒼白なし、眼球結膜黄染あり。胸腹部に異常なし。下腿に浮腫なし。
検査所見:尿所見:蛋白 2+、糖 (-)、潜血 3+。沈渣:赤血球 10-18/HPF、白血球 <1/HPF、赤血球円柱 1-4/HPF。
血液学所見:赤血球 327万、MCV 88 fl、Hb 10.4 g/dL、白血球 5,400、血小板 1.5 万、破砕赤血球あり。網赤血球数 3.2 %(基準 0.2〜2.0)、APTT 30s、INR 1.1、直接クームス試験陰性。
血液生化学所見:HbA1c 5.5 %、総蛋白 5.7 g/dL、アルブミン 3.0 g/dL、尿素窒素 54.3 mg/dL、クレアチニン 2.32 mg/dL、尿酸 10.5 mg/dL、AST 33 IU/L、ALT 23 IU/L、LD 990 IU/L (基準 176〜353)、γ-GTP 55 IU/L、Na 146 mEq/L、K 5.5 mEq/L、Cl 111 mEq/L、Ca 8.9 mg/dL、P 6.1 mg/dL、ビタミンB12 350 pg/mL、葉酸5.2 ng/mL、IgG 930 mg/dL (基準 960~1,960)、IgA 232 mg/dL (基準 110~410)、IgM 80 mg/dL (基準 65~350)。
免疫血清学所見:CRP 3.6 mg/dL。抗核抗体陰性、抗ds-DNA抗体1.0 IU/ml、抗Sm抗体<1.0 U/ml、抗RNP抗体 <2.0 U/mL、C3 50 mg/dL、C4 29 mg/mL、CH50 68 U/mL。
画像検査:胸部X線検査異常なし。胸腹部単純CT検査:リンパ節腫脹なし、腎萎縮なし。
特発性血栓性血小板減少性紫斑病を想定し、血漿交換とステロイドを開始した。第7病日に外注追加検査結果でハプトグロビン測定感度以下、ADAMTS13活性50 %、インビビター陰性が判明した。治療開始後にもかかわらず血栓性微小血管障害(TMA)の状態は継続し、血小板低値も遷延した。
本症例で考慮される追加治療はどれか。1つ選べ。
解答:b
a | 静注用免疫グロブリン製剤(IVIg) |
b | エクリズマブ |
c | 脾臓摘出術 |
d | リツキシマブ |
e | カプラシズマブ |
解説
TMAの原因検索は治療と並行して行う必要がある。本症例は来院時点でPLASMIC score高値(少なくとも6点)であることから、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の可能性が高く血漿交換を中心とした集学的治療が開始された。ADAMTS13活性<10%かつインヒビター高値例が免疫学的血栓性血小板減少性紫斑病(i-TTP)を示唆するが、本症例は否定的である。
TMAの病態が遷延している場合に、aHUS(補体介在性)を想起する必要がある。本邦においては、遺伝子検査による補体制御異常を確認することが診断の補助となる。鑑別診断として高血圧性TMAと妊娠関連TMAを必ず除外する必要がある。治療は抗C5抗体薬(エクリズマブ/ラブリズマブ)(推奨度:1C)がaHUSの寛解に有効であるとされているが、aHUSの原因や病態は多岐にわたるため、実際の使用に関しては個別に判断する必要がある)。
他の回答は下記である。
a. × IVIGはaHUSでは使用されない
b. ○ エクリズマブ
c. × 脾臓摘出術は特発性血小板減少性紫斑病(ITP)で考慮される。
d. × リツキシマブは難治性TTPの際に考慮される。
e. × カプラシズマブはTTPの初期治療に用いられる。
参考文献:非典型溶血性尿毒症候群(aHUS)診療ガイド2023
血栓性血小板減少性紫斑病診療ガイド2023
(15)
72歳の男性。近医内科に通院しており、以前から腎機能低下を認めていたが、最近貧血が進行したため、ロキサデュスタットを使用してよいか問い合わせがあった。
血液学検査:白血球数 5,500、赤血球 312万、Hb 9.6 g/dl、血小板 26.3 万。血液生化学検査:総蛋白 7.4 g/dl、アルブミン 4.1 g/dl、尿素窒素 44.1 mg/dl、クレアチニン 2.3 mg/dl、Na 141 mEq/L、K 4.4 mEq/L、Cl 109 mEq/L、 推算GFR 22.3 ml/min/1.73m2。
投与開始する前の対応として優先順位が低いものはどれか。
解答:d
a | 悪性腫瘍スクリーニング |
b | 眼科受診 |
c | 血栓塞栓症の既往の確認 |
d | 血中エリスロポエチン濃度測定 |
e | 鉄欠乏の検索 |
解説
近年上市されたHIF-PH(hypoxia-inducible factor-prolyl hydroxylase)阻害薬の適正使用に関する問題である。
a)腎癌に代表される多くの固形癌において、HIF-1α蛋白位の発現亢進と癌の進行・転移との正の相関関係が報告されているため、投与開始前と投与開始後の悪性腫瘍スクリーニングが望ましい。
b)HIFの活性化を介し血管新生が亢進する可能性が指摘されており、増殖糖尿病性網膜症、黄斑浮腫、滲出性加齢黄斑変性症、網膜静脈閉塞症など網膜出血のリスクが高い症例では特に注意して投与が必要である。
c)添付文書上、血栓塞栓症の警告がなされており、血栓症の既往がある症例では慎重に使用するとともに、新規血栓症の出現時は中止が望ましい。
d)腎性貧血の診断において血中エリスロポエチン濃度測定は補助的な意義はあるものの、必須とは言い難い。これが正解である。
e)鉄欠乏性貧血に対しては鉄補充が優先されるだけではなく、鉄欠乏が血栓症のリスクとなるため、投与開始前に鉄欠乏の検索(TSAT/フェリチンの確認)は必須である。なお、日本腎臓学会による「HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation(日腎会誌 2020;62(7):711‒716.)」も参照されたい。
(16)
蛋白尿に関して正しいのはどれか。2つ選べ。
解答:dとe
a | 尿定性試験での(-)の判定基準は、尿蛋白濃度30mg/dL以下である。 |
b | 起立性蛋白尿は慢性腎臓病の発症のリスク因子である。 |
c | 蛋白尿の成分にはアルブミンが含まれ、約20%である。 |
d | 強アルカリ尿は尿蛋白偽陽性の原因となる。 |
e | 尿蛋白定性試験が(-)であっても尿蛋白/Cr比が上昇する場合がある。 |
解説
蛋白尿の構成や内訳、また定性検査と定量検査を理解しておくことは腎臓内科診療を行う上で重要である。
各設問の解説は下記である。
a. 尿定性試験の(-)判定基準は、尿蛋白濃度15mg/dL未満である。これは、1日尿量を1Lとすると(±)基準の15mg/dLならば、150mg/L=150mg/日となり正常上限と等しくなるためである。尿定性試験は濃度であって、定量を行う場合は別検査となることに注意が必要である。
b. 起立生蛋白尿は慢性腎臓病のリスク因子とはならない。
c. 蛋白尿の成分にはアルブミンが含まれ、約30-40%である。
d. 尿試験紙は酸性条件下で蛋白がプラスに荷電した状態のところに色素が結合することにより発色するため、尿pHが測定結果に影響を及ぼす。強アルカリ尿では偽陽性を示すことがある○
e. 尿蛋白定性が陰性であっても尿蛋白/Cr比が上昇する場合がある。○(尿定性検査は尿アルブミンを検知しているのに対し、尿P/Cは他の尿蛋白を構成する成分(免疫グロブリンやTHPなど)も測定に含まれるため。)
参考文献:診療ガイドライン - 一般臨床医のための検尿の考え方・進め方
(17)
血漿交換療法が保険適用とされていない疾患はどれか。1つ選べ。
解答:d
a | スティーブンスジョンソン症候群 |
b | 抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎に伴う急速進行性間質性肺炎 |
c | 膜性腎症 |
d | 神経ベーチェット病 |
e | 微小変化型ネフローゼ症候群 |
解説
抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎に伴う急速進行性間質性肺炎、膜性腎症、微小変化型ネフローゼ症候群は令和6年より血漿交換療法の適応が追加された。神経ベーチェットに対しアフェレシスの治療有効性を報告したエビデンスはない。
参考文献:日本アフェレシス学会. 診療ガイドライン2021
(18)
血液浄化用カテーテルについて、誤っているのはどれか。1つ選べ。
解答:b
a | 穿刺時、ガイドワイヤーが超音波の短軸像と長軸像の両方の画像で標的静脈内にあることを確認できなければ、ダイレーターは挿入しない。 |
b | 抜去時、抜去手技では頭部挙上して行うのが望ましい。 |
c | 抜去部は、密封式のドレッシング材で被覆することが望ましい。 |
d | カテーテルの位置異常の可能性がある場合はX線側面像の撮像を検討する。 |
e | カテーテルの位置異常の可能性がある場合、透視下に挿入した場合は、造影剤検査で正確な位置確認を行うことが望ましい。 |
解説
抜去手技は下肢挙上など静脈圧を上げる体位で行う。
参考文献:中心静脈カテーテル挿入・抜去に係る死亡事例の分析 第2報(改訂版)
(19)
本問題は誤植があったため、採点除外とします。
「腎障害患者におけるガドリウム造影剤使用に関するガイドライン(第3版)2024年」について正しいのはどれか。1つ選べ。
解答と解説
(不適切問題のため解説はなし)
(20)
小児腎不全について正しいのはどれか。1つ選べ。
解答:d
a | 初回腎代替療法の選択は、血液透析が最も多い。 |
b | 低年齢児では体重当たりESA投与量が成人に比べ少ない。 |
c | 小児腹膜透析患者の2大死因は、心血管系障害と悪性腫瘍である。 |
d | 末期腎不全の原因疾患は、先天性腎尿路異常が最も多い。 |
e | 難治性ネフローゼ症候群は、先行的腎移植のよい適応である。 |
解説
日本小児腎臓病学会からの実態調査報告では、2006年から2011年末までの20歳未満の小児末期腎不全患者における初回腎代替療法の選択は、腹膜透析が60.6%、先行的腎移植21.9%、血液透析15.7%であった。また、末期腎不全の原因疾患は、先天性腎尿路異常(congenital anomalies of the kidney and urinary tract:CAKUT)が最も多い。低年齢児は成人に比べてクリアランスが高いため、多量のESAを必要とする。小児腹膜透析患者の2大死因は、心血管系障害と感染症である。先行的腎移植が難しいケースとして、難治性ネフローゼがあげられる。