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相馬友和先生(東北大学腎高血圧内分泌科、医化学分野)からのノースウエスタン大学、デューク大学留学便り

相馬友和先生(東北大学腎高血圧内分泌科、医化学分野)からのノースウエスタン大学、デューク大学留学便り


Duke大学腎臓内科の相馬友和と申します。この度、留学記を寄稿する機会をいただき、日本腎臓学会、そして東京大学稲城先生にこの場を借りて感謝しています。今後研究留学を御検討している皆様の少しでも参考になればと思っております。

私は、東北大学医学部にて基礎医学研究のトレーニングを腎高血圧内分泌科(伊藤貞憙教授主催)および医化学分野(山本雅之教授)にて受けた後、2013年10月から2017年10月までイリノイ州シカゴにあるNorthwestern大学腎臓内科、Feinberg心臓血管研究所のSusan E. Quaggin研究室に留学しておりました。その後、1ヶ月前より (本稿執筆時2017年12月)縁があってノースカロライナ州ダーラムにあるDuke大学腎臓内科で自身のラボを持つ機会を得、ラボの立ち上げに奮闘しています。

ノースウエスタン大学医学部は米国イリノイ州シカゴ市の中心にある全米医学部ランキンキング20位以内の研究大学です。シカゴと聞くと危険?と思うかもしれませんが、ノースウエスタン大学周辺は非常に安全で、diversityに富んだ良い街です。私の師匠である山本雅之教授は、ノースウエスタン大学のシカゴ郊外エバンストンキャンパスに御留学しておられたことから、運命的なものも感じながら、極寒のシカゴで研究留学を開始しました。

ノースウエスタン大学医学部のキャンパスは、シカゴの一番の繁華街であるMagnificent mile(魅惑の1マイル)から徒歩5分という高級地区にあります。ホテルのような壮麗な病院群を中心に、ビル群がキャンパスを形成しています。研究棟は最新の美しいビルや、古いビルの内装を改築したものまで、新旧のビルが乱立しています。古いビルでは、エレベーターがガタガタ揺れたり、ドアが閉まらず、手で押して助けたりと、大丈夫か?と思ったりするレベルもあります。多くの方が大学近辺に住んでいますし公共交通機関が発達しています。私たちは電車、バス、徒歩で生活していました。春から秋には美しいミシガン湖に徒歩5分で行けるという良い立地にあります。その代わり生活費は高くなります。

Susan Quaggin博士は、カナダ、トロント大学医学部を御卒業後、電解質と腎生理で高名な Halperin教授の下で腎臓内科医としてのトレーニングを受けられました。その後、米国Yale大学のPeter Igarashi博士のもとでポスドク、カナダでJanet Rossant博士のもとで2nd post-docをなされた後に研究室を主宰されています。Quaggin研究室は、これまでにも多数prestigiousな雑誌に腎臓病の新規メカニズムを解明して 来ています。主にマウス遺伝学的手法を用いて腎臓病の病態を次々と明らかにしています。特に、抗がん剤として用いられている抗VEGF抗体が腎臓の糸球体を障害する機序を同定したことで有名です(Eremina V, Quaggin SE, et al., N Engl J Med. 2008)。その後も、主に血管作動性物質であるVEGFやAngiopoietinの腎臓に置ける役割について検討を続けています。現在のラボの研究テーマの主題は、Angiopoietin-Tie2経路と緑内障と腎臓内科のラボではありますが、偶発的にAngiopoieitn1およびAngiopoietin2の2重欠失マウスが緑内障を呈することを発見したことから腎臓研究に加えて緑内障研究、血管増殖因子のシグナル解析、リンパ管発生など多岐に渡った研究が行われています。

Quaggin研究室は、これまでにも多数、Cell、Nature medicine、Journal of Clinical investigationなどのいわゆるhigh impact雑誌に研究を報告してきていましたので、最新鋭の機器が研究室に立ち並ぶのだろうと想像していましたが、実際には自分たちではあまり機器をもたず 研究所に所属するラボが持つ機器を共有するというスタイルです。 私の体験した範囲ではありますが、Quaggin研究室がダイナミックに研究が進む理由として、Quaggin博士の人柄にも支えられた、豊富な友人、共同研究者の存在があると思っています。試薬の貸し借りなどもラボ間で頻繁に行われ、Quaggin博士が主催する心臓血管研究所のjoint lab meetingでは、研究所に所属するポスドク、大学院生が毎週研究内容を発表し、互いに意見し合っている非常に風通しの良い環境があります。さらに、マウス遺伝学を用いた解析がラボの中心業務であるため、100系統以上いると思われる多数の複合遺伝子改変マウスが 常時維持され、常にラボの科学者が新しいマウス系統を作成しています。また、高額機器や解析サービスは大学および研究所の共通機器やコアサービスとして十分に提供されているため不自由はありませんでした。更に、素晴らしいことは大学内、大学間を問わず共同研究が盛んなことでした。

多くの日本人研究者は、自分でなんでもすることに誇りを持ってじっくり研究をすると思います。良し悪しはあると思うのですが、Quaggin研究室では要領よく研究する、互いの優れた点を持ち寄ってより研究を発展させるというのが、研究スタイルのような印象を持っています。 実際に、私が参加する機会をいただけた緑内障研究においても、国際共同研究チームがすぐに立ち上がり、電話会議を繰り返しながら研究が非常にダイナミックに進んでいきました。ただ、この電話会議が非常に辛く英語の発音の重要性を感じました。ゆっくりとなるべく正しい発音、正しい文法で話すことが必要なのだと恥ずかしながら留学して初めて学びました。また、英語には英語流の丁寧な言い回しがあり、それを用いることの重要性もあります(私の簡単な理解では、なるべく過去形にしておくです。Could, wanted, I wondered, you might want toなどなど)。ビジネス英語実は失礼?などwebで検索すると留学前に役立つと思います。発音に関しては、私が恥ずかしながら通じなかった音は(er、th、f、rとl, a)が主だと思います。それらを意識し、アクセントの位置に注意することで通じやすくなりました。異なる種類のaの音は今も区別できませんが。。。特に、国際的に活躍している研究者や移民が多い地区では訛った英語も通じやすいですが、外国人と話ししたことが無いという方々との会話では大変です。ぜひ留学中に意識してください。こんなこと言っている私ですが、娘5歳にパパは英語得意じゃ無いものねと言われています!

また、研究留学では多くの医師研究者は2年から3年で帰国されることが多いと思います。その際にやはり研究のバディを見つけて、楽しくディスカッションを繰り返しながらデータを持ち寄り論文に仕上げていくのは、多くのかたが2~3年という短期決戦であるため重要であると思います。私が短期間(4年は短期でないかもしれませんが)で、第一著者として3本の報告をできたのは一重に私のバディのBen Thompson博士のおかげです。皆さんもバディを見つけて研究を楽しむことをお勧めします。

また、いろいろな背景の違う分野の日本人の方と外国の地で出会うことの楽しさも研究留学にはあります。日本で医師研究者として継続できる実験系を学び持ち帰るという具体的な目標をお持ちの先生、シカゴで人生をとびきり楽しむことを目標にしている先生、サイエンスを純粋に楽しんでいる先生など、色々な方とお会いできたことは自身の人生を考える良い機会になりました。

Quaggin博士は多くの友人、知人を週一回のrenal grand roundの講演に呼び、私たちtraineeと講演前、後に演者と研究や研究者人生について会話する機会をくださります。この時に、世界中の有名人と知り合い?になれるというのも研究留学の魅力と思います。実際、私はQuaggin博士のご友人で妊娠中毒症研究者のS. Ananth Karumanchi博士と彼の公演後に会話する機会を得て、その際に自分が山本研究室でしていた酸化ストレスと妊娠中毒症の研究について相談、その場で共同研究してくださると言っていただけました。山本雅之教授にもご許可いただき、彼のinputをいただけたことは私たちの論文を良くしていく上で必須のものでした。積極的に話しかけるのも非常に重要と感じています。だいたいの方は非常にあたりも良く嫌な顔はしませんのでぜひ試してみてください(特別ちょっと恥を掻くこともあるかもしれませんがこれといって何もデメリットはありません)。

また、私は週一回の数ヶ月に渡るグラントセミナーに参加する機会をいただきました。これまでprofessional scientific writingを学ぶ機会は多くありませんでしたが、この機会で多くを学びました。グラント、論文の書き方(いかにreadableでstoryが1本通ったものになるかということ、storyのflowを意識するといったこと)をこの4年継続して学べたと思っています。まだまだ未熟で現在もメンターのMyles Wolf教授はじめ多くの友人、同僚を煩わせていますが、この英語nativeの一流のscientistに直接英語での論文の書き方を学ぶというのは、研究者として生きていく上で留学の重要な意義の一つと感じています。ぜひ留学先のセミナーに色々と参加してください。そして論文を添削してもらう、rebuttal letterを添削してもらう。これが将来生きてくると私は信じています。他分野の研究内容を聞くことも新しいヒントにつながることも多いと思いますので腎臓内科だけでなくいろいろなセミナーに時間を見つけて参加することをお勧めします。

4年在籍したNorthwestern大学について長く記載しましたが、次に現在所属しているデューク大学についてもご紹介させてください。デューク大学医学部は全米8位にランクされる研究大学の医学部で、2名のノーベル賞学者が在籍しています。腎臓内科は、これまで高血圧研究で高名なDr. Tom Coffmanが率いておられましたが、現在は心腎連関とミネラル代謝で常に世界を臨床研究、基礎研究ともにリードしておられるDr. Myles Wolfが主任教授になられました。私は、Wolf博士がNorthwestern大学におられたという縁もあり、彼の新しい教室の一員になる機会をいただきました。腎臓内科での研究発表および研究Facultyとの1:1の面接と言ったJob interviewの末に幸運にも採用していただけました。現在は、Duke大学腎臓内科の皆さんから多くのサポートを受け感謝しながらラボの立ち上げ中です。嬉しいことに、Northwestern大学の久米勉博士のご紹介で、細胞生物学分野のBrigid Hogan博士にも私のメンターになっていただくことになりました。人と人の繋がりは日本でももちろん大事ですが、外国で暮らしていると人の優しさに感謝を覚えないことはなくなります。 これからは、東北大学、ノースウエスタン大学で学んだことを多いに生かして研究を発展させていきたいと思っています。自身の救急医学、腎臓内科の臨床経験を生かして急性腎障害の研究を行なっていく予定です。多くの方に支えられており、Wolf博士の期待に応えたいと思っています。ここで、少し宣伝ですがDuke大学は、全米トップの大学で、優秀な科学者が集まり、研究設備や学内共同研究も盛んで基礎研究、translationalな研究を行う上で最適な環境の一つですが、シカゴ、ボストン、カリフォルニアに比べて生活費が安価です。また皆穏やかで優しい印象です。バスドライバーの方々(僕は夜間の運転が得意でないのでバス通勤です)もみな良い方ばかりです。研究留学、特に家族でされる方、お子様が多い方にお勧めです!ぜひDuke大学腎臓内科も研究留学先としてご考慮いただけたらと思います。どのグループに属されても、私もいますので最大限の支援をいたします!留学したい旨を連絡してみるのも最初のステップとして重要と思います。多くの研究室がポスドクに給与を支払うのが難しい時期もあるし、たまたま支払うことができる時期もあると思います。全額支払えなくても日本からの支援があれば一部負担してくれる研究室もあります。留学助成の申請書書きをサポートしてくれる場合もあります(Duke大学腎臓内科に来られる場合は、日本語での申請書下記は私が指導担当いたします)。私の場合は、学術振興会よりサポートいただけましたことが留学開始に非常にポジティブに働きました。まずは、参加したラボのドアをノックしてみることだと思います。腎臓病の基礎研究者は世界的に希少価値があると思います。ぜひ新しい世界にチャレンジしてみてください。

最後になりましたが、今回の留学の実現にあたって、快く送り出してくださった山本雅之教授、伊藤貞嘉教授に心より感謝申し上げます。そして、Dukeでの生活を開始できたのは私のワガママに付き合ってくれる妻と子供達、家族のサポートのおかげです。これまで研究を指導してくださった皆さま、変わらず応援してくれる先生がた、友人達、留学をサポートしてくださいました日本学術振興会に深謝するとともに、これから研究留学を志す皆様が楽しく有意義な留学生活を送れることをお祈り申し上げます。

Duke大学腎臓内科 Medical Instructor
相馬友和

 

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