小冊子
検尿の考え方・進め方 - 第3章 3.検尿異常への対処
● 第3章 検尿の位置づけ
検尿異常への対処の基本的考え方、ポイント
・潜血
尿潜血陽性例では、必ず尿沈渣にて赤血球尿であることを確認する。沈渣上赤血球増加を認めない場合は、ヘモグロビン尿、ミオグロビン尿の可能性があり、溶血や横紋筋融解をきたす疾患の鑑別が必要となる。赤血球尿であれば、腎・尿路からの出血があることを意味する。また、糸球体性血尿と尿路性血尿の鑑別には尿中赤血球の形態観察が役立つ。糸球体疾患による血尿では赤血球の形や大きさが不均一で多彩な変形を示すが、尿路結石、腎・尿路腫瘍、膀胱炎などの尿路性血尿では赤血球形態・大きさは均一である。プライマリケアの臨床でも尿沈渣標本の注意深い観察でこの区別は可能である。採尿直後の新鮮尿を用いることが重要で、無染色にて観察する。以下の記載は赤血球尿の場合に限る。早朝尿との比較も起立性血尿などとの鑑別に有用である。持続性血尿が一過性・断続性血尿かで可能性のある疾患が変わってくるので、繰り返し検査する。頻回の通院が困難な場合は、自己検尿を指導し、後に結果を評価するのも有効な方法である。
・蛋白
尿蛋白陽性例においても繰り返し検査するのが原則である。随時尿で陽性の場合、早朝尿との比較により運動の影響を除外でき、早朝尿で蛋白陰性なら起立性、運動性蛋白尿の可能性が高くなる。繰り返す検尿で蛋白陽性の場合は、尿蛋白定量を実施する。24時間蓄尿を用いた全尿検査が望ましいが、実施困難な場合には早朝尿の蛋白/クレアチニン比(g蛋白/gクレアチニン)をみる。これは尿の濃縮の程度を補正するためで、1日尿蛋白排泄量とよく相関する。1日クレアチニン排泄量は約1gであり(体格、筋肉量によって異なる)、蛋白/クレアチニン比が1なら1日尿蛋白も1g程度はあるものと判断される。試験紙での判定と乖離があれば、ベンス・ジョーンズ蛋白など低分子蛋白尿の存在が疑われる。1日尿蛋白が1g以下であれば糸球体性の蛋白尿と判断してよい。尿蛋白が3.5g以上の場合には血清アルブミンが低下しネフローゼ症候群となり、浮腫が生じる可能性がある。1g以上の蛋白尿やそれ以下でも血尿、蛋白尿の合併例では腎生検の適応と考えられ、腎臓専門医への紹介が必要である。
・白血球、細菌
試験紙によっては白血球(エラスターゼ)、細菌(亜硝酸塩)の検出が可能である。これらが陽性の場合は尿路感染症の存在を示唆するものであるが、診断に際しては決して試験紙の結果だけでなく、必ず尿沈渣をチェックする。患者の目の前で自ら検鏡することが望ましい。染色されない白血球〔輝細胞(glitter cell)〕、細菌、貪食像などを認めれば尿路感染症と判断して治療を開始する。臨床症状によって膀胱炎と腎盂腎炎の鑑別は可能であり、後者の場合は高熱がみられ、容易に菌血症をきたすための抗生剤の点滴投与が必要な場合も多い。
・尿糖
尿中にグルコースが出現する病態として、血糖値が腎の排泄閾値(170mg/dL程度)を超えて上昇した場合か、血糖値がそれ以下でも腎の排泄閾値が低下している場合(腎性尿糖)の両者を含むため、尿糖陽性=糖尿病ではない。糖尿病早期発見、スクリーニングの目的には食後2時間尿を用いた検尿が適切である。スポット尿で尿糖陽性をみたら、食後2時間血糖値、ヘモグロビンA1c(HbA1c)、および尿糖再検をすることで尿糖が高血糖の反映か排泄閾値の低下によるかをはぼ判別しうる。食後2時間血糖値が140mg/dL未満、HbA1c正常値であれば一応腎性糖尿と判断する。食後一過性高血糖、oxyhyperglycemiaの確認には75g経口ブドウ糖負荷試験(75g OGTT)が必要となるが、日常診療の場ではそこまでの必要はない。食後2時間高血糖、HbA1c高値をみれは75g OGTTを実施し糖尿病の診断手順に従う。
先天性腎性糖尿の場合、放置可能であるが、後天的に出現した腎性糖尿では近位尿細管障害の存在を疑い、薬剤服用歴や重金属への曝露歴などを聴取する。
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