褒賞選考部会

大島賞・CSA(Clinical Scientist Award)

平成14年度 大島賞選考結果報告

平成14年度大島賞選考結果報告

褒賞選考委員会
委員長 伊藤貞嘉

平成14年度で第9回目を迎える大島賞の選考委員会が、去る平成13年9月21日に行われた。選考方法は以下であった。まず、事前に大島賞候補者の推薦書・履歴書・研究業績目録及び主論文3編を各委員へ送付し、順位並びに評価コメントを依頼した。委員会では業績や論文内容を個々の応募者ごとに検討して討議を行った後、無記名投票を行った。その結果、以下の2名が候補者として推薦され、平成14年4月22日開催の理事会において承認された。


東京大学医学部腎臓内分泌内科 南学 正臣
「腎疾患の発症と進展機構の解明」

南学正臣氏は、糸球体腎炎を中心とする腎疾患の発症と進展について免疫学的側面よりアプローチして、特に補体及び補体調節蛋白に関連した多くの優れた仕事をしている。その対象は免疫学的腎疾患の発症機序とそれに対する生体の防御機構から、慢性腎不全の進展機構の中心として注目されている非選択的蛋白尿に伴う尿細管間質障害まで、幅広く及んでおり、研究の手法も、通常の動物実験、組織学的解析から、分子生物学的手法、遺伝子改変動物などを最先端の技術に至るまで、幅広く駆使し、洗練された実験を行っている。「糸球体腎炎の発症機序として糸球体における調節蛋白の許容限度を超えた補体の過剰な活性化が重要であり、その結果生じる蛋白尿中に含まれる補体によって引き起こされる尿細管間質障害が腎不全を進行させる」ことを示した一連の業績は、kidney Internationalのinvited review、アメリカ腎臓学会のinvited lectureなどとして世界的にも広く高く評価されている。また、氏はhemolytic uremic syndromeの病像を呈する新しい糸球体内皮細胞障害モデルの開発に成功し、腎血管内皮細胞障害のメカニズムと、それに伴う糸球体及び尿細管間質の虚血性の変化についても世界をリードする業績を上げている。

これらの氏の研究業績は腎糸球体疾患の遺伝子レベル、分子レベルでの解析手法を使っての病体解明と治療の開発に大きく寄与すると考えられ、この分野の世界での若手のリーダーとして大島賞に値すると評価された。


東京慈恵会医科大学腎臓高血圧内科 横尾 隆
「慢性糸球体腎炎の遺伝子治療」

横尾隆氏は英国留学中に腎炎進展に炎症性サイトカインのIL-1βが深く関与していることを明らかにし、帰国後に炎症糸球体においてIL-1 の作用を特異的に抑制することにより、腎炎進行を抑止することが可能となると考え、研究に着手した。まず、有効な糸球体への遺伝子導入法が確立されていなかったため、炎症糸球体に特異的に遺伝子を導入する方法の開発を行った。マウス骨髄細胞を特殊環境下で培養し接着分子のリガンドを持った細胞に分化させ、これを担体としてアデノウィルスを用いて導入した遺伝子を炎症部位で発現させることに成功した。これを用いIL-1 受容体アンゴニスト(IL-1Ra) を実験腎炎惹起マウスに導入し、炎症糸球体でのIL-1 活性を阻害し、2週間にわたって腎炎進行が抑えられることを確認した。さらにIL-1 βプロモーター発現下でCre recombinaseを誘導するCre/loxPシステムを用い、目的遺伝子を発現させることにより、このシステムの炎症部位特異性を向上することを可能とした。さらに、骨髄細胞に分化する前にレトロウィルスを用いIL-1Ra 遺伝子を導入し、自己複製機能を持ったまま生着させ、抗炎症性細胞を持続的に骨髄から供給させるシステムを開発した。これらの研究は慢性腎炎の新しい治療戦略としての可能性を示唆し、今後の更なる研究の展開も期待され、大島賞に値すると評価された。