褒賞選考部会

大島賞・CSA(Clinical Scientist Award)

平成15年度大島賞選考結果報告

平成15年度 大島賞選考結果報告


平成15年度大島賞選考結果報告

褒章選考委員会
委員長 清野佳紀

平成15年度(第10回)の大島賞の選考委員会が、去る平成14年9月30日に行われた。選考方法は以下のとおりであった。まず、事前に大島賞候補者の推薦書・履歴書・研究業績目録ならびに主論文3編を各委員へ送付し、順位並びに評価コメントを依頼した。委員会では業績や論文内容を個々の応募者ごとに検討し討議を行った後、無記名投票を行った。その結果、以下の2名が候補者として推薦され、平成15年4月21日開催の理事会において承認された。


東北大学医学部付属病院腎高血圧内分泌科 有馬 秀二
「糸球体血行動態調節機序の解明とその病態生理学的意義に関する研究」

有馬秀二氏は、米国Henry Ford病院高血圧研究部門に留学した後、独創的研究手法(単離糸球体微小灌流実験)を習得し、一酸化炭素(NO)やプロスタグランディンなどの内因性血管拡張物質による糸球体血行動態調節機構を明らかにした。帰国後は独自の発想で研究を進め、高血圧や腎疾患で認められる糸球体血行動態の以上がどのような機序で引き起こされるかを明らかにすることで、その病態生理を解明しようと努めている。また最近では、アルドステロンが輸出細動脈を収縮させて糸球体内圧を上昇させること、さらにこの作用がnon-genomicでありスピロノラクトンでは抑制できないことを明らかにし、レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系の糸球体血行動態への作用に関する新しい概念を提唱している。
氏の研究はin vitroの実験系を用いた基礎研究ではあるが、その目的は高血圧や腎疾患の成因・病態の解明を目指したものであり、臨床的意義も高い。各種降圧剤や糖尿病治療薬の糸球体血行動態への作用を明らかにした氏の研究成果は、臨床の場における薬剤の使用に直接役立つものであり、以上の氏の業績ならびに今後更に期待される研究の展開から大島賞に値すると評価された。


埼玉医科大学総合医療センター第4内科 今澤 俊之
「糸球体疾患における骨髄由来細胞の役割」

今澤俊之氏は、IgA腎症の経過中に慢性骨髄性白血病(CML)を併発し、CMLに対して施行された骨髄移植後にIgA腎症が寛解した症例の経験を発想の原点とし、マウス骨髄移植法の実験条件を確立し、骨髄移植の後に糸球体で起こるいくつかの事象について、一連の興味深い研究成果を報告してきた。最初の研究では、正常マウスにIgA腎症自然発症マウスの骨髄を移植すると、正常マウスの糸球体メサンギウムにIgAの沈着が認められるようになることを明らかにした。第二の研究では、IgA腎症自然発症マウスに正常マウスの骨髄を移植すると、血中高分子量IgAが著しく減少し、同時に糸球体病変も軽減することを報告した。
また、骨髄移植後に糸球体病変が軽減する機序として、単に免疫担当細胞が再構築されるという機序ばかりでなく、糸球体自体も移植された骨髄由来の細胞で再構築されることが関与しているという独創的な仮説を立て研究を推進させた。実験の結果、糸球体構成細胞が骨髄由来の細胞により再構築される現象を世界に先駆けて視覚的に捉えることに成功した。骨髄由来のメサンギウム細胞が存在することを詳細に検討して報告したことは、糸球体疾患における再生医学への希望をもたらし、我が国の腎臓病学の発展に大きく貢献したものと評価できる。このように氏は、臨床例を出発点として独自の考えを実証してきた若手研究者として大島賞に値すると評価された。