大島賞・CSA(Clinical Scientist Award)
平成22年度 大島賞選考結果報告
平成22年度大島賞選考結果報告
褒章選考委員会
委員長 堀江重郎
大島賞は若手研究者を対象に、将来の腎臓学研究のリーダー足りうる人材に光を当てることを目的に設けられており、毎年2名の満42歳以下の研究者に授与されている。平成22年度の大島賞選考委員会は平成21年10月5日に行われた。今年度は4名の候補者の推薦があり、いずれの研究業績もきわめて質が高いものであった。褒賞選考委員会では、候補者の研究業績の質と広がり、および将来性などについて多岐にわたる議論を行った結果、以下の2名が大島賞に値するものとして推薦し、平成21年11月30日の理事会において承認された。
野田 裕美・東京医科歯科大学腎臓内科
「腎における水輸送制御メカニズムの解明と水代謝疾患に対する新規治療法開発」
野田氏は、東京医科歯科大学腎臓内科において、尿崩症や高血圧の病態に関与するチャネルの研究を行ってきた。氏は上皮型NaチャネルENaCのde novo mutationによるLiddle症候群の存在をはじめて明らかにし、ENaCのpolymorphismが本態性高血圧の一因になっている可能性を示し、また二重標識免疫電顕で水チャネル輸送に必要なモチーフを同定した。さらにプロテオミクスの手法により水チャネルAQP2はモーターコンプレックスと直接結合していることをはじめて明らかにし、プロテオリポソーム再構成系での表面プラズモン共鳴や蛍光相互相関分光法を用いた腎尿細管由来細胞での1分子レベルでの分子間相互作用のリアルタイム測定によりAQP2の作動メカニズムの解明に成功した。この発見は腎性尿崩症の治療法開発の分子ターゲットを明らかにし、さらに腎性尿崩症のみならず様々な水代謝異常をコントロール可能とする強力な新規治療法の開発を可能とすると考えられ、また、この研究手法は他の疾患遺伝子による病態解明にも応用できると考えられる。これらの一連の研究は分子腎臓病学において幅広い手法を駆使したものであり、先駆的かつ独創性が高いことから大島賞に値すると判断された。
深澤 洋敬・浜松医科大学第一内科
「ユビキチン・プロテアソーム蛋白分解機構による腎疾患進展の調節秩序の解明」
深澤氏は浜松医科大学第一内科において蛋白のユビキチン化とプロテアソーム蛋白分解機構に関する研究を行って来た。氏は腎炎進展における腎線維化のメカニズムとしてTGF-β信号伝達において抑制作用を有するSmad7、SnoNおよびSki蛋白がユビキチン依存性蛋白分解を受け減少することによりTGF-β信号伝達が増加し腎線維化が進行することを示した。また細胞周期関連蛋白p27のユビキチンリガーゼであるSkip2が腎線維化に関与することを報告した。米国留学中はスリット膜・糸球体上皮の研究を行い、現在は糸球体上皮細胞における蛋白分解経路の解明を行っている。以上の一連の研究内容は、ユビキチン依存性蛋白分解による蛋白量の調節が、進行性腎障害に深く関与していることを示し、ユビキチン・プロテアソーム系の調節が腎疾患治療の新たなターゲットとなる可能性を示したものであり、大島賞に値すると判断された。