褒賞選考部会

大島賞・CSA(Clinical Scientist Award)

平成26年度 大島賞選考結果報告

平成26年度大島賞選考結果報告

褒章選考委員会
委員長 柏原直樹

大島賞は、若手研究者を対象に、将来、本邦の腎臓学研究のリーダーたりうる人材を顕彰することを目的に設けられており、毎年2名の42歳未満の研究者に授与されている。平成26年度の大島賞選考委員会は 平成25年10月20日に行われた。今年度は10名の候補者の推薦があり、いずれも本賞の趣旨に合致し、研究業績もきわめて質が高いものであった。褒章選考委員会では、候補者の研究業績の質と広がり、および将来性などについて多岐にわたる熟議が行われ、以下の2名が大島賞に値するものとして推薦し、平成25年12月1日の理事会において承認された。

長船 健二氏・京都大学iPS細胞研究所

長船氏は、1996 年に京都大学医学部を卒業し、京都大学医学部附属病院、兵庫県立尼崎病院等にて内科研修を修了している。2000年に東京大学大学院理学系研究科博士課程に入学し、腎臓発生と再生の研究に着手している。両生類の万能細胞塊であるアニマルキャップから前腎のネフロンが分化誘導可能であることを示し、さらに、マウス胎生腎(後腎) にネフロン前駆細胞が存在することを初めて明らかにした。 2005 年から3 年間、ハーバード幹細胞研究所/ハーバード大学幹細胞再生生物学教室に客員研究員として留学した。そこでは、ヒトES細胞からの臓器の構成細胞への分化誘導を研究し、低分子化合物の高速スクリーニング系を用いて分化誘導化合物を同定することによって新規の分化誘導法を開発可能であることを示した。 2008 年に帰国後、京都大学iPS細胞研究所に研究の場を移し、ヒトiPS/ES細胞から腎臓系譜への分化誘導法開発と難治性腎疾患患者の体細胞由来の疾患特異的iPS 細胞を用いた新規疾患モデルの作製研究を中心に研究に取り組んでいる。 長船氏は、京都大学iPS細胞研究所において、国内外から多くの若手研究者を研究プロジェクトに受け入れ、後進の育成にも取り組みつつ、研究を推進している。組織構築においても卓越した資質を示している。 長船氏の研究は腎臓病の究極の治療法ともいえる腎臓再生を目標としたものであり、その臨床的意義の大きさは言を待たない。医学部卒業後に従事した腎臓病診療の現場から、難治性腎疾患の治癒を目指すという研究動機を獲得し、以来、一貫してこの困難な目標達成への難路をたゆまずに歩んでこられた。京都大学、東京大学、米国Harvard大学、そして京都大学iPS細胞研究所と場所を移しながら、最先端研究拠点で、腎臓発生学研究に端を発し、ES細胞、iPS細胞と研究手段を高度化させつつこの目標達成に精進されており、敬服の他はない。 現在の研究内容は、日本発の革新的な科学研究の成果であるiPS細胞を用いて、腎臓の発生学に関する深い理解に基づき、正攻法で腎臓再生を目指す研究であり、日本腎臓学会のみならず、本邦の医学・医療研究者の大きな期待を背負うものといえる。 この様に研究業績、研究課題の新規性、果敢に難題に挑戦する姿勢、いずれをとっても刮目すべきものがあり、今後の本邦の腎臓学研究の牽引者となることが大いに期待できる。 以上のことから大島賞に値すると判断された。

 

田中 哲洋氏・東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科学

田中氏は1997年に東京大学医学部医学科を卒業後、 東京大学医学部附属病院、関連病院内科での研修を経て、東京大学医学部腎臓・内分泌内科に加わった。2005 年に学位取得後、ドイツEr1angen大学客員研究員、東京大学保健 ・健康推進本部動務を経で、2013 年.に東京大学医学部附属病院 ・内分泌内科助教に就任している。 田中氏の研究テーマは慢性進行性腎障害の共通進展経路である尿細管間質の慢性虚血・低酸素の病態形成における意義とその分子機序の解明である。分子生物学的手法をはじめとする最先端の実験技術を臆することなく駆使し、尿細管間質低酸素の可視化・定量化に世界に先駆けて成功している。更に低酸素転写因子HIF の機能を明らかにし、慢性低酸素がCKDの進展に.おいて重要な病態修飾因子であることを報告してきた。その研究成果をJam Soc Nephrol, EASEB jouml, J Biol Chemなどの国際的な一流誌をはじめとする多くの原著論文に発表している。いずれも新規性の高い研究成果であり、これらの論文は、国外研究者の論文においても数多く引用されており、高い注目度を伺うことができる。 腎組織の慢性虚血は慢性腎臓病のfinal common pathwayとして広く認知されるに至っており、そこには田中氏とその指導者である東京大学南学正臣教授が中心的な役割を果たしていることは広く知られているところである。この分野の国際一流誌における論文数は過去10年の間にも飛躍的に増加しており、ここにはパイオニアとして田中氏が大きく貢献している。 精力的な研究活動の傍ら、臨床医としても卓越した力量を発揮しており、所属医療機関において、患者、メディカルスタッフ、後進医師から厚い信頼を得て、多忙な診療業務もこなしている。腎臓内科医として資質の高さも衆目の一致するところである。臨床現場から研究課題を見出し、仮説を立脚し、実験研究により検証し、洞察を加えて結果を国際誌に論文発表することで世に問う、というphysician scientistとしての理想的なrole modelを示している。近年、本邦において臨床経験を有し、かつ科学研究に取り組む人材が減少しつつあることが危惧されており、後進教育においてもあるべき姿を示すことにより、多大な貢献を行っているといえよう。 研究、臨床、教育において卓越した資質・業績を有し、将来の本邦の腎臓学のリーダーとなり、腎臓学を牽引者となることが大いに期待できる人財である。 以上の理由から大島賞に値すると判断された。